巨人原辰徳監督(61)が30日、9連勝中だった宿敵広島を破り、史上13人目の監督通算1000勝を達成した。巨人一筋では川上哲治氏(1066勝)、長嶋茂雄氏(1034勝)に次いで3人目で、12年の楽天星野仙一氏以来となる大台到達となった。
原監督はどうして結果を出し続けることができるのか。縁深い面々の証言から困難なテーマを探った。
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「1000日の修行」と、積み上げた「1000勝」の重み。宮城・仙台駅から1時間ほど、秋保温泉近くの慈眼寺で住職を務める塩沼亮潤氏(51)は、14年のハワイ優勝旅行以降、原監督と親交を深めてきた。
同氏は、奈良・吉野山の標高差1355メートルの山道を往復48キロ、1000日間歩き続ける「大峯千日回峰行」を完遂。さらに9日間「食べず、飲まず、寝ず、横にならず」を続ける「四無行」を終えた日本の歴史上2人しかいない「大阿闍梨(あじゃり)」と呼ばれる存在になった。
「世の中、味方1000人、敵1000人。恨み、ねたみ、そねみ、人間の負の力、マイナスのパワーがあるとしたら、原さんは気付いていても、勝負になったらとらわれない。100対0で勝ちを取りにいく。それが運勢を引き寄せる。普通は99対1でも(負の感情が)1あればマイナスに働く。『運』と『運ぶ』は一緒の字。心の針が全部プラスにあるから、結果が運ばれてくるんです」
1000日間の歩みは、途中で行をやめる場合は所持する短刀で自らの腹を切る掟(おきて)がある。14年の優勝旅行の際、原監督は東海大ハワイ校で行われた塩沼氏の講義を最前列で聞いた。「喜びの中に修行があった。オレなんか、まだまだ」とひかれた。「大変な修行を何年もかけてやった。でもね、すごく普通の人っぽいところもあるんだ」と人間味にも触れた。
修行と野球道。塩沼氏は言う。「お坊さんも野球も一緒だと思う。毎日同じことの繰り返し。でも繰り返していくと、悟るきっかけがあるとお釈迦(しゃか)様が言ってるんです。原さんは『この勝負を過去最高の勝負にする』だけを考えてやっているんじゃないかな。今日よりも明日。明日より明後日。その情熱を失ったら、悟ることはできない。常に過去最高を目指している」。
947勝から再開した、3度目の監督。塩沼氏は「人を乗せる、やる気にさせるのがうまい」と言う。「過去最高」を目指す戦いはコーチ陣も一新して迎えた。タレントとして活動していた宮本投手総合コーチ、元木内野守備兼打撃コーチをグラウンドに呼び戻すなど、1軍は8人中7人が新たな顔触れになった。
原監督は現在のチームを「途上」と表現する。成長過程の若手とともに、コーチの育成にも取り組みながら白星を重ねる。宮本コーチは「先輩後輩だとニコニコしているけど、上司と部下になると、こんなに変わるのかと。緊張感を与える部分、和ます部分、監督はそこがすごい」と言う。
元木コーチは、明るい声と洞察力でチームに欠かせぬ盛り上げ役になった。「勝負師ですよね。ここで動くか…というサインもあるし、4年連続優勝を逃すプレッシャーの中で引き受けて、コーチもガラッと変えた。すごいギャンブル。始まる時に『お前たちももっと勉強して、たくさん覚えていかないといけない』と。今後のジャイアンツのことも考えていると思います」と感じ取る。
なんでバラエティーに出ている元木なんだ-。周囲の雑音を封じ、背中を押したのも指揮官の言葉だった。「『オレが怒らなければ正解だと思っていい』と。『お前の野球観を若い選手に教えてやってくれ。間違っているならオレが注意する。見ているから』。一番プレッシャーだよね、見ているという言葉はね」。
言葉の力。原監督が発した声に影響を受けた選手や関係者は数知れない。1000勝中、最多の113勝を挙げた内海(現西武)は、時に「ニセ侍」「突発性四球病」などと苦言を呈された。「悔しかったけど監督の思いは分かってます。4番とか、エースとかキャプテンとか。主力にしか、そういうことは言いませんから。期待の裏返し。僕はそれに応えたいと思って、マウンドに上がった」。
今は結果が出ない時、4番岡本を「ビッグベイビー」と称して奮起を促す。時にたたえ、叱咤(しった)し、言葉巧みに組織を動かす。昨年引退した育成出身の山口鉄也氏は、中継ぎながら1000勝中3位の50勝を挙げた。「勝った試合より、負けた20敗をよく覚えてます。失敗しても使ってくれた。どんな時でもネガティブなことは言わずに、ポジティブな言葉で前を向かせてもらった。だからマウンドに上がる時は、いつも無心で腕を振れました」。
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塩沼氏はのべ4万8000キロを1000日間で歩き、原監督は02年4月3日の初勝利から6328日かけて1000勝にたどり着いた。塩沼氏は「原さんは『野球道』を通じて自分の道を究めていると思うんです。逆境になって、追い込まれると力を発揮する、まさに行者タイプ。変態的なところがあると勝つんです(笑い)。追い込まれても、心の針がマイナスにいかなければ、絶対に乗り越えられる」。強い心で「運」を「運び」、勝ち星を積み重ねている。【前田祐輔】
◆阿闍梨(あじゃり)と大阿闍梨 密教で修行が一定の段階に達し、灌頂(かんじょう)と呼ばれる儀式を受けた僧。伝法灌頂を授ける資格を持つ位の高い阿闍梨を大阿闍梨という。



