窮地を救った。阪神近本光司外野手が勢いよく三塁ベースに滑り込む。黄色のメガホンが一斉に揺れると、新人リードオフマンは右拳を突き上げた。

「一気に逆転したい場面だった。冷静な部分もあったけど気持ちが出ました」

1点差に詰め寄った5回、なお2死満塁。高木京の内角高めの直球を振り抜いた。打球が右翼線にはずむと、ぐんぐん加速。走者3人を全員かえす一時逆転の三塁打で一挙5点を挙げ、一気にムードを変えた。3回にも内野安打を放ってマルチ安打。前日15打席ぶり安打を放った男が完全復調もアピールだ。

昨季ドラフトで1位指名を受けて阪神に入団。社会人の最優秀選手賞「橋戸賞」を獲得しても、周囲には「チカモトって誰…?」とささやかれたことがある。それでも「新人王と盗塁王」の獲得を目指して奮闘。有言実行でまずは盗塁王のタイトルを手にした。無名から1年で「チカモト」の名を全国区に押し上げた。

「負けると今シーズンが終わってしまう。(CSは)1本の重みが違う」

1勝しても負ければ終戦の窮地に変わりはない。だがその一振りがチームを勇気づけた。第4戦も背番号5の奮闘に期待だ。【真柴健】