最下位転落の危機にあった広島が、記録的な猛攻で息を吹き返した。敵地での中日戦の3回に1986年(昭61)6月3日大洋戦以来、球団34年ぶりとなる1イニング11安打で一挙9得点。23安打19得点で大勝した。前夜は大黒柱の大瀬良を先発に立てたが延長10回サヨナラ負け。苦しい状況でナインがつなぎを徹底し、1本の線になった打線が完全に勢いを取り戻した。

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鳴り響く拍手の渦にも舞い上がらない。堂林は迷わずバットを寝かせた。同点の3回無死一、二塁。首位打者を走る28歳は初球、当然のようにセーフティーバントを試みた。「つなぐ場面だったので」。ボール球でバットを引く。手の内を明かした後も「つなぐ意識」は揺るがなかった。2球目の外角スライダーを拾って中前へ。3連打で無死満塁とし、直後に7番坂倉の勝ち越し打が飛び出した。

もう止まらない。8番田中広の2点打で5連打を完成させ、先発勝野をKO。1番ピレラから3者連続適時打、5番松山からも再び3連打が飛び出し、2番手三ツ間も餌食にした。打者一巡の猛攻で9得点。34年ぶりに球団最多の1イニング11安打に並んだ。この回だけで先発野手全員安打。佐々岡監督は「理想的というか…。よくつないでくれた。みんなが意識した結果」とナインをたたえた。

前日10日は延長10回サヨナラ負け。この日敗れれば最下位転落の可能性もあった。窮地に立たされ、指揮官は小さな変化に救いを求めた。前夜までの長袖を半袖に。「験担ぎ? そういうこと!」。祈りが通じたのか、8回にもこの日2度目の打者一巡。球団16年ぶりの19得点、10年ぶりの23安打に思わず破顔した。

走者をためてもホームベースが遠い。開幕から続く負のスパイラルから、総力をあげて脱出した点に光がある。勝野の低めフォークを深追いせずに好球必打。全員がエゴを排除し、つなぎに徹した。3回の11安打のうち長打は2本だけ。記録的な猛攻は必然の結果だった。

先輩たちに引っ張られ、22歳坂倉はともに自身最多の4安打5打点。1イニング適時打2本まで記録した。経験と若さがミックスされ、コイは勢いを取り戻した。それでも4安打2打点の堂林は浮かれない。「1日1日、1打席1打席、極端な話、1球1球必死にやるだけです」。仲間を信じて謙虚につなぐ。役者ぞろいのメンバーが一致団結すれば、カープはやはり怖い。【佐井陽介】

▼広島は3回に11安打を集中させ、23安打で19得点を挙げた。1イニングの最多安打記録は92年7月15日西武の13安打で、11安打以上はプロ野球16度目。広島の1イニング11安打は優勝した86年6月3日大洋戦の9回に並び2度目の球団タイ記録。3回の広島は本塁打や四死球がなかったため得点は9点止まり。1イニングに11安打以上してその回に1桁得点は初のケースだった。なお、広島の1試合23安打以上は10年9月18日横浜戦の24安打以来となり、1試合19得点以上は04年5月23日ヤクルト戦の19点以来、16年ぶり。