シビれた。阪神岩貞祐太投手(28)がDeNA打線を8回3安打無失点に抑え、今季2勝目を挙げた。

前日11日に2敗目を喫した藤川球児投手(39)が右肩のコンディション不良のため出場選手登録を抹消。リリーフ陣に不安が残る中、岩貞が意地の力投でカード勝ち越しに導いた。

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114球目、最後の1球に力を振り絞った。1-0の8回2死一、二塁。岩貞が投じた渾身(こんしん)のフォークは、見事に落ちた。「気合です、気合のフォークです」。梶谷のバットが空を切ると、ぐっと拳に握りしめた。

意地の力投だった。初回2死からソトに四球を与えるも、そこからDeNA打線を圧倒した。2回2死から戸柱をスライダーで空振り三振に仕留めると、回をまたいで3者連続三振。5回1死で宮崎に許した左前打が、この試合初の被安打だった。「ボールも操れていたんで、飛ばしていこうと思っていた」。8回3安打無失点に抑え、ファンの歓声に包まれて今季2勝目を挙げた。

悲壮な決意を抱いていた。守護神を務めていた藤川が右肩のコンディション不良で離脱。リリーフ陣に不安が残った。長いイニングを-。その思いはいつにも増して強かった。この日の朝、岩貞の元に藤川から「離れるけど…」とLINEが届いた。左腕はエールの言葉と受け止めた。「球児さんが戻ってくるその時まで、やっぱりチームがいい状態にいて、球児さんが抑えをするというのがベストだと思うので、そうなれるように投手が1つになって頑張っていきたい」。

上げた右足を1度真っすぐに下ろしてから投球する、岩貞の現在のフォームは、藤川との「共作」だった。自宅待機期間が明け自主練習が始まった時、ボールの威力の弱さに悩む岩貞に、藤川が声を掛けた。そこから3日間、密着指導。2人で新たな投球フォームを作り上げた。「本当に感謝しかないし、球児さんのためにも必死でやっていくしかないと思います」。チーム状態を少しでも良くして、守護神復帰を待つ。

甲子園での初完投はならなかったが、頼もしい姿を見せた。矢野監督も「西と青柳とサダ(岩貞)が引っ張っていってくれれば、チームがだいぶ安定し始める。本当に今日は素晴らしかったし、これを次回からも」と期待。藤川の教えを胸に、7年目の左腕がマウンドを守る。【磯綾乃】

○…岩貞は地元を思いながら腕を振った。出身地の熊本は、7月上旬からの豪雨で甚大な被害を受けた。登板前には地元の友人たちから「熊本のみんなが見てるからね、頑張ってくれ」とたくさんの連絡が届いた。親族に大きな被害はなかったが、傷ついた地元に心を痛める。「知ってる町ですし、苦しい局面にいるというのは、同じ熊本県民として心苦しいものがある。やっぱり自分としては、野球を見てくださる熊本の人のためにも、必死で行くしかないと思います」と力を込めた。