右翼ポール際の通路に突然、観客がへばりつき始める。登場曲が流れる前に、名前がコールされる前に、誰が現れるか確信できた。阪神藤浪晋太郎投手(26)はマウンドにたどり着いた直後、内野陣から声をかけられると、心を見透かされたからか照れ笑いした。

「死ぬほど緊張しました。先発の時とは違って、人の勝ちがかかった場面で投げることがこんなに緊張するとは思っていませんでした」

3点リードの8回表、レギュラーシーズンでは初めて甲子園で救援登板した。チーム休日の前日28日を挟んで3連投。力みはあっても、疲れは感じさせなかった。先頭7番阿部への4球目、外角に今季最速159キロを決める。16年に計測した自身最速160キロに肉薄する1球に聖地がザワついた。

阿部をフルカウントから歩かせ、8番木下拓にも2ボール。捕手坂本がマウンドで間を取ると、落ち着きを取り戻す。木下拓は外角154キロで二ゴロ。代打溝脇はスライダーで二ゴロ。1番大島も内角153キロで二ゴロ。1球1球にどよめきが発生する中、1回を無安打無失点だ。高橋3勝目の権利をつなぎ、今度は安堵(あんど)の笑みが見られた。

「だって、晋太郎は球界の宝だから」

なぜ、そこまで藤浪を気に懸けるのか。そう問われた時、虎の看板を長年背負い続けた鳥谷は簡潔にそう説明した。「特別な能力があるんだから。誰だって、そんな選手がこのまま終わってほしくないでしょ」。

制球難に苦しんでいたころ、投手と野手の垣根を越えて何度も言葉をくれた。ロッテ移籍後も対戦したい投手を問われれば、事あるごとに名前を出し続けてくれた。「ありがたいです」。先輩の言葉に泥を塗るわけにはいかない。配置転換にも動揺している暇はない。

7年ぶりの救援登板から3戦目で早くも勝ちパターンに組み込まれた。チームは13連戦に突入したばかり。フル回転は望むところだ。「何とか無失点で抑えることができて良かったです」。プロ初ホールドでひと山越えた。藤浪が、リリーバーとして再生の道を走り始めた。【佐井陽介】