阪神大山悠輔内野手(25)が口元を引き締めたまま、右腰に手を置いたライバル岡本の前を走り去る。勝ち越しのバックスクリーン弾。虎の4番の意地だ。

「本当に(高橋)遥人が頑張って投げてくれていた。なんとか援護したいという気持ちが強かった」

同点の5回2死一塁。2ボールから桜井の失投を見逃すわけがない。前日は3四球。この日の1打席目も四球。好球に飢えていた。シュート回転気味に浮いた143キロ直球。力まず、強引にいかず、豪快に2ランを決めた。

「自分のタイミングで振り抜けたことが良かった。1発で仕留められたことがすごく大きかったです」

今季24号。リーグトップの巨人岡本に並んだ。バックスクリーン弾の賞金100万円もゲット。そんな事実以上に、ただただ目の前の1勝を喜んだ。

この日、今季初めて助っ人勢の名前がスタメンから消えた。1カ月半にわたって4番を張ったサンズは現在24打席連続無安打。前日7回には左手に死球を受け、途中交代していた。ボーアも17打席連続無安打と苦しんでいた。和製打線の中で47日ぶりに4番を任された一戦。「やることは変わらない」。3安打3得点2打点で期待に応えた。

寝ても覚めても打撃を追求してきたから、今がある。2月の沖縄キャンプ中には夜中、突然「ベイベ、ベイベ…」と歌声が聞こえて、跳び起きたこともあった。布袋寅泰の代表曲「スリル」。ボール1箱分の連射ティー打撃が始まる際、宜野座球場に流れるBGMだ。「起きて、無意識のうちにバットを探してしまって…」。昨季14発からの進化は努力の証しに違いない。

白熱する本塁打王争いには「試合が優先。まずは目の前の試合です」と冷静。ただ、甲子園で揺れに揺れるネーム入りの赤タオルを見る度に力が湧く。

「タオルを広げてもらえている数の多さは見ていて思う。素直にありがたいですし、広げてくれてるファンのためにもなんとか頑張りたいと思っています」

勝利を、ファンの笑顔を追い求めた先に、阪神では86年バース以来となる「キング」の勲章が待つ。【佐井陽介】