4球団競合の末に、ドラフト1位で近大・佐藤輝明内野手(21)が阪神に入団した。日刊スポーツでは誕生から、プロ入りまでの歩みを「佐藤輝ける成長の軌跡」と題し、今回は10回連載の特別編をお届けします。

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近大4年の今秋、最後の関西学生野球リーグで、阪神ドラフト1位佐藤輝明内野手(21)は3本塁打を放った。リーグ通算14号とし、二岡智宏(元巨人)を抜く本塁打新記録(82年の新リーグ以降)をつくった。

10試合で35打数9安打、一方で三振も目立った。15三振(空振り12、見逃し3)は、26個のアウトの半分以上を占めた。ドラフト会議の目玉となった佐藤輝に打たれまいと、相手は厳しい内角攻めと外角ボール球の変化球で勝負。新型コロナウイルスのため実戦不足もあるのか、春先の助っ人外国人のように輝明のバットは空を切った。

だが巨人渡辺政仁スカウトは「構え遅れで差し込まれている。ほんの少しのこと。タイミングの取り方はなかなか教えられないので、プロに入って自分の間をつかむこと」と、三振の多さはプロで克服できると見ていた。高く滞空時間の長い内野への飛球にも、スカウトたちは「長距離砲しか打てない打球」と声をそろえた。

ソフトバンク稲嶺誉スカウトは「柳田だって、入団から3年かかりましたから」と今や日本を代表するスラッガーを引き合いに出した。フルスイング男の柳田も最初はボール球を空振りばかり。結果がほしくて当てにいくこともあった。輝明も1年目は苦しむかもしれない。だが数年後には不動のレギュラーを任せられる逸材として、12球団すべてから調査書が届いた。

稲嶺スカウトは「守備での打球、状況判断が素早くていい」と三塁守備での視野の広さも評価。オリックス下山真二スカウトは「守りで構える時に、今はやや(体の)後ろに体重がかかっている。つま先で前体重になると、もっと1歩目も早く出るようになる」と、前に重心を置けばさらに守備範囲も広くなると話す。

阪神では外野手としてスタートする。近大田中秀昌監督(63)は「練習でも打球に飛び込んだりしない」と、内野ノックでスマートにプレーする輝明に物足りなさを感じていたが、80年代後半、黄金時代に中堅を守った西武秋山幸二のように、外野で飛び込まなくてもファインプレーを連発するタイプになる可能性を秘める。

1位入札した巨人、ソフトバンク、オリックスの担当スカウトは、スケールの大きさ、素材だけでなく、プロ入り後さらに成長できると球団に推薦していた。即戦力投手1位の方針で、指名を諦めた広島鞘師(さやし)智也スカウトは「日本を代表する選手になる。よその球団に行っても頑張ってほしい」と話す。輝明は12球団にほれ込まれる存在だった。【石橋隆雄】