何事もそうだが、人を指導することは難しい。教える側はあの手この手と工夫を凝らすが、伝わらないもどかしさや、うまく伝えられないいらだちにさいなまれる。

巨人の宮本和知投手チーフコーチは、温和な表情で選手を見守っている姿が目立つ。春季キャンプは、選手と指導者がレベルアップのために最も意見を交わす時間。投手陣の練習を時には離れた場所から見守り、タイミングを見ては積極的に声を掛けるなど、状況をつぶさにチェックし、セ・リーグ2連覇の投手陣を築き上げてきた。

25日の那覇キャンプで、投手陣のキャッチボールを見つめる宮本コーチに指導の“コツ”を聞いた。「プロの人たちはニュアンスでも伝わるんですよ」と、選手のおかげと笑顔で首を振った。それだけではないはず…「では、子どもたちに教えるときのコツは」と質問の切り口を変えた。「そうですね」と即座に言葉が飛び出した。「子どもに教える時とかは『ありがとうって、何ていう言葉に言い換えられると思う?』って聞いてみるんですよ」と笑った。うなりながら思案するが、いい言葉が浮かばない。「僕は『当たり前』だと思うんです」と正解を明かした。

ユニホームがいつも洗ってある。温かいご飯を作ってくれる。洗濯された服がきれいにたたんである。そして、大好きな野球ができる。「全部『当たり前』だと思っていることを、全部『ありがとう』に言い換えてごらんと。ご両親に1つずつ、ありがとうを言おうねと話をするんです。単純に『ご両親に感謝しなさい』って言っても、やっぱり難しいですから。大人にも当てはまる? 確かに、そう言えるかもしれないですね」。

“当たり前”に思えることを“ありがとう”に置き換えることで、感謝の気持ちが芽生える手助けをする-。相手の理解力の視点に立って言葉をチョイスする根幹の指導法は、プロ相手でも同じなのだろう。9年ぶりの日本一を目指す投手陣に、今キャンプも宮本コーチがきめ細やかな指導を行き届かせている。【浜本卓也】