野茂が、速球勝負で夢をかなえた。ザ・ボールパーク・イン・アーリントンで行われた米大リーグ第66回オールスター戦で、ナ・リーグの先発マウンドを踏んだ野茂英雄投手(26=ドジャース)は、2回を1安打3三振無失点の好投を演じた。圧巻は、ア・リーグNO・1打者のフランク・トーマス(27=ホワイトソックス)をストレート一本やりで捕邪飛に仕留めたピッチング。恋女房ピアザが出したフォークボールのサインに首を振っての速球勝負。夢舞台にロマンを求めたメジャーリーガー野茂が、そこにいた。

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フォークボールなど頭になかった。野茂が、こん身のストレートに夢を乗せた。待ち焦がれていた場面は2回裏にやってきた。この回の先頭打者としてバッターボックスに向かうトーマスの姿が見えた。3年連続で30ホーマーを放ち、2年連続でアメリカン・リーグMVPに輝いた男。前夜のホームランダービーでは470フィート(約143メートル)の驚異的な一発を披露し、28年ぶりの三冠王を狙っている大リーグのNO・1スラッガーと相対する幸せに心がときめいた。

「打たれてもいい。ストレート勝負でいこう」。勝敗は捨ててかかった。力んだ。1球目は、内角高めに大きく外れた。だが、ロマンだけを追い求めて投げ込むストレートにおびえはない。2球目。ど真ん中に投げ込んだ。トーマスのバットが、すごい音を立てながら空を切った。3球目、指に引っ掛かり過ぎたボールは、大きく外角に外れた。カウント1―2。小さく深呼吸して、ピアザのサインをのぞき込んだら、フォークのサインが見えた。迷うことなく首を横に振った。4球目、またしてもど真ん中目がけてストレートを投げ込んだ。グシャ! 鈍い音を残したトーマスの打球は、力なく一塁側ファウルグラウンドに舞い上がり、ゆっくりと追いかけていったピアザのミットに収まった。

「打たれたとしても、楽しかったと思いますよ」。一つ間違えばスタンドまで運ばれていたかもしれない紙一重の対決に勝った野茂は言った。先発登板が決まった直後の記者会見では「ファンには申し訳ないけど、自分が一番オールスターを楽しみたい」と、意味深なコメントを発した。その答えが、この日のピッチングだった。全25球中、自慢のフォークは、わずかに7球。オールスターのマウンドに上った野茂にとって、三振の数(3個)など問題ではなかった。ペナントレースで勝負は捨てられない。夢の舞台だからこそ、楽しめるし、試せることがある。パンチ力を誇るア・リーグの打者たち相手に、自分のストレートがどれだけ通じるか。たっぷりの遊び心に、今後もメジャーで生き抜こうとする野望を織り込みながら、1安打無失点で2イニングの責任回数をまっとうした。

「(大リーグに)来てよかった。これからも魅力あるピッチングをしていきたい」と、マウンドを下りた野茂は言った。そこにメジャーの一流選手と肩を並べられた自信が浮かんでいた。

試合中のテレビインタビューも終え、ベンチにどっかりと腰を下ろしたら、すさまじい弾道を目撃した。トーマスが、スマイリー(レッズ)のストレートを左翼2階席まで運んでいた。「野茂から打てなかったから、スマイリーから打ったのさ。彼を攻略するには、相当な苦労がいるよ」と、ダイヤモンドを1周してきたア・リーグの4番打者は言った。

そんなコメントも知らぬまま、トーマスの「驚弾」をしっかりと見届けた野茂は、黒いグラブを手にして、再び立ち上がった。まるで一人の少年ファンに戻ったように、チームメートたちに、サインをねだるために。

◇米大リーグ 第66回オールスターゲーム(11日・アーリントン、ザ・ボールパーク)

ナ・リーグ 000 001 110 3

ア・リーグ 000 200 000 2

◆ナ 野茂、スマイリー、TY・グリーン、ニーグル、ペレス、スローカム、ヘンキー、マイヤーズ―ピアザ、ドールトン

◆ア ジョンソン、エイピアー、マルチネス、ロジャース、オンティベロス、ウェルズ、メサ―ロドリゲス、スタンリー

(勝)スローカム(S)マイヤーズ(敗)オンティベロス(本)ビジオ、ピアザ、コナイン(以上ナ)トーマス(ア)

(通算成績はナの39勝26敗1分け)

★球宴アラカルト

◆ギブアップ 40度を超えるテキサス特有の酷暑に、スター選手は軒並みギブアップ。その中でただ一人平気だったのは、フロリダが本拠地のMVP男コナイン(マーリンズ)だった。「何ともなかったよ」と涼しい顔。

◆2者連続盗塁死 初回の攻防でダイクストラ(フィリーズ)とバイエガ(インディアンス)がともに盗塁を失敗した。2者連続盗塁死は、球宴では13年ぶりの出来事。これまで12回連続成功していた。

◆ノーヒット ナ・リーグはビジオ(アストロズ)の本塁打が出る5回2/3まで無安打。これまでの記録(5回1/3、61年)を抜いて、不名誉な球宴新記録となった。

◆残塁「0」 この試合のナ・リーグの残塁は、盗塁死と本塁打3発で「0」だった。これも球宴新記録。これまでの最少残塁記録は71年に記録された「2」。