山本はこだわりのグラブを手に、五輪初戦の先発マウンドに臨んだ。「出会いは彼が小学生の頃。おやじさんと、店に来てくれた」。岡山県備前市でグラブ「アイピーセレクト」を手がける野球用具販売店「With Sie」の鈴木一平さん(50)は振り返る。十数年の付き合い。プロ野球選手になったら、グラブを作ってもらいたい。山本はその夢をかなえた。

左手の人さし指をグラブの外に出すのが主流だが、中指を出すタイプだ。「左手でボールをわしづかみするイメージ。重さも感じないように、出すのは中指。固定概念がない。色もお任せ」と、鈴木さんは話す。 1つのグラブ製造に、生活をかける。「(職人が)全工程を止めて、彼のグラブを作る。相当な思いです。作り出したら1日で仕上げます」。完成品を見せた瞬間が、生きがいだ。「渡したら『おー!』って、純粋に。毎回、初めてグラブをもった少年みたい。究極は皮膚のように手とグラブをマッチさせたい」。理想を追い、故郷から二人三脚で世界の頂点を目指す。【真柴健】