最下位から巻き返したヤクルトに何が起こったのか? 昨年からの大きな違いの1つが「ホークアイ」を使いこなしたことだ。MLBが全球団で取り入れる最先端の映像分析システム。ヤクルトは昨年、試験導入したものを本格活用した。高津再生工場の秘密も、そこにあった。今野、近藤、原、大下、田口ら…。戦力外通告からの復活や、例年よりも好成績を残した投手が目立った。今季、NPBではヤクルトだけが使った高度な分析は、今後の日本野球のトレンドになるかもしれない。

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神宮は“鷹の目”で監視されている。グラウンドに向けて8台のカメラを設置。選手のデータを収集している。レーダーでトラッキングする手法「トラックマン」とは違い「ホークアイ」は画像による解析を行うため、ボールの軌道や回転数などに加え、投手のリリースポイントや、リリース時の角度、投球時の手首や肩の位置までもが分かる。打撃面でも、スイングスピードや、加速度、バットとボールのコンタクトポイント、グラウンドにいる選手全員の骨格情報や動作まで数字に表すことができる。

楽天戦力外から7回の男として再生を遂げた今野は「いいときと悪いときのリリースの位置や手首の角度だったり、変化球のホップ成分を確認していた」と活用法を明かした。自分の投球が数値化されることで、課題は一目瞭然となる。伊藤投手コーチは「今の自分の状態を確認するには、完璧にしていくには有効なデータ。いろんな数字を出していって、納得してもらって、トライしてもらう。変化量やどういう回転が理想なのかを客観的に見た」とフル活用した。

数字にもとづいて、コーチから新球を提案することもあった。例えばサイスニード。シーズン序盤、チェンジアップとスライダーの精度が低く、決め球が直球に偏っていた。空振りを取れる球として、変化の方向や球速からフォークが有効だとデータは示していた。伊藤コーチは「過去にも投げていたらしいので、もう1度トライしてみませんか?と。チェンジアップとは球速も異なるし、落差もある。練習で投げている球はいいので、どんどん打たれてもいいからゲームで使っていきなさいというところですね」。1年目の助っ人は、そこからフォークを駆使。これまで6勝2敗と日本の野球に適応した。

実は思い切った取り組みもしていた。キャンプからオープン戦、シーズン中も、新たな球種の習得を許容してきた。しばらくの間、結果につながらないのは織り込み済み。石井投手コーチは「キャンプ中の成績はひどかったと思うんですよ。それは僕らもある程度想定内でやっていた。もちろん昨年の成績の中で考えると『やっぱり今年も』って言われたかもしれないですけど、すべてはこのシーズンのこの時期のためにやってきたことが、本当にうまくいった」。オープン戦の結果を度外視して、新たなものに取り組ませることで歓喜の秋につなげた。最新のデータ分析に最下位からの挑戦者精神が加わり、投手陣再建が成功した。【湯本勝大】

◆ホークアイ 01年英国で生まれた会社。03年から画像解析とトラッキングシステムのサービスを提供している。クリケットから始まり、06年からはテニスのチャレンジ、サッカーのVARにも活用されている。11年からソニーグループ入り。現在では25競技、90カ国、500以上のスタジアムで利用されている。野球では20年7月にMLB全30球場で導入。同6月からはヤクルトがNPB12球団に先駆けて実証実験を始めた。

◆高津臣吾(たかつ・しんご)1968年(昭43)11月25日、広島県生まれ。広島工-亜大を経て90年ドラフト3位でヤクルト入団。最優秀救援投手4度。03年オフにFAでホワイトソックス移籍。メッツ、ヤクルト、韓国ウリ、台湾興農、BC新潟を経て12年引退。日本通算286セーブは歴代2位。14年に1軍投手コーチでヤクルトに復帰し、20年から監督。180センチ、75キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸8000万円。

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