えっ、輝のバント、あるよ!? 阪神佐藤輝明内野手(22)が沖縄・宜野座キャンプで行われた16日のケース打撃で、セーフティースクイズを敢行。矢野燿大監督(53)もびっくりの奇襲を見せた。1日主将を務めた練習前のあいさつでは、古代ギリシャの哲学者ソクラテスの「無知の知」を引き合いに「固定観念に縛られない」ことが大事と呼び掛け。変幻自在な大砲からますます目が離せない。

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左腕の渡辺がリリースする直前、佐藤輝が突然バットを寝かせた。虚を突かれた内野陣は前に出られない。小飛球は捕手後方へのファウルとなった。3球目もバントの構えを見せたが、ボール。最後は右太ももへの死球で終わったが、特大アーチより仰天の1打席だった。「自分で想定しながらやりました。今年はバントもあるぞと。(相手を)びびらせてやろうかなと思って」としてやったりだ。

設定は無死一、三塁。大砲に期待する最低限は犠飛だろう。それがまさかのセーフティースクイズだ。矢野監督ら首脳陣ものけぞって驚き、笑みをこぼした。

背番号8はどこまでも本気だった。「あると思わせるのもそうですけど、実際にやっていきたい。絶対に出塁しないといけない場面で、できたらデカい。選択肢を広げる意味では、できた方がいいと思います」。 相手投手はチームで唯一のサイド左腕渡辺。「特に変則の左とかはなかなか確率よく打つのが難しいので」と意図も明確だった。1年目の昨季は犠打、バント安打とも0。「まあ、やったことがないんで(得意か)分からないですけど」。プロ入り前も大学日本代表で経験した程度だという。

仲間も驚かせた作戦の伏線は、練習開始前にあった。1日主将を務め、「無知の知」と書き込んだTシャツ姿でこうあいさつした。

佐藤輝 『無知の知』は好きな言葉。知らないことがあることを自覚することが大事だと思います。分かりやすく言うと『固定観念に縛られない』。正しいと思っても、間違っているかもしれない視点を持つことで、本当の知識、正解にたどりつくかもしれない。

紹介したのはなんと古代ギリシャの哲学者、ソクラテスの言葉だった。井上ヘッドコーチや糸原からは「お前はもっと(固定観念に)縛られろ」「縛りつけるぞ」と爆笑のヤジが飛んだが、3時間後に実行したのがバント作戦だった。固定観念で佐藤輝イコール、フルスイングと決めつけていいんですか? 視察していた他球団にも不敵なメッセージになったに違いない。

矢野監督も主力にバントを命じる可能性について「相手投手やイニング、優勝争いの中とかに考えられる」と明かした。今年は“ソクラテス輝”、あっと驚くバント作戦で沸かせる日もありそうだ。【柏原誠】

◆無知の知(むちのち) 紀元前の400年代、古代ギリシャの哲学者ソクラテスが唱えた。「不知の自覚」とも訳される。「知恵(知識)がないと自覚している者が最も知恵のある者である」と一般的には解釈されており、現代では「知っていると思い込まない」ための戒めとして使われることが多い。

▼阪神の昨季のチーム犠打数82はセ・リーグ4位。矢野監督が就任した19年から昨季までの3年間の犠打総計は272で、セ6球団中3位。

▼阪神4番打者の犠打は、福留孝介が17年6月15日西武戦の10回無死一塁で、シュリッターから捕前に決めたのが最後。矢野監督が就任した19年以降で4番の犠打はないが、主軸打者では大山悠輔が19年に6番で、20年に5番で1個ずつ決めている。00年以降の22年間で、阪神4番の犠打は合計7個で、この間の最多は00年新庄剛志の3個。2リーグ分立後で見ると、阪神4番のシーズン最多犠打は、64年遠井吾郎の4個。

▼他の打順も含めた阪神の強打者では阪神最多349本塁打の掛布雅之が通算5犠打。田淵幸一は球団在籍中2位の320本塁打、通算では474本塁打を放ちながら、犠打0のまま現役を終えている。