かつて「虎のプリンス」と呼ばれた男が、監督として甲子園に凱旋(がいせん)した。試合開始直前、阪神矢野監督とのオーダー交換を終えると、本塁付近から真っさらなマウンドへ数歩、歩いた。敵将の思わぬ行動に、どよめく甲子園。ダイヤモンドの中心に立つと、帽子を取り、かつて何度も見上げたバックスクリーンへ向かって、深々と一礼した。試合前には「もう、忘れられているんじゃないかな」と心配もしていたが、ワッと沸いた甲子園のスタンドに向かって、力強く右拳を握って見せた。

試合開始から1時間のうちに、BIGBOSS野球を存分に展開した。「ここの球場は本当に、もしかしたら福岡のペイペイドームよりレフトが狭いかも。風で」。ライトからレフトへ吹く甲子園特有の浜風を警戒し、左中間から中堅への意識を指示した。

1回、浅間、万波の2連続長短打や清宮の中犠飛で2点を先行すると、2回も宇佐見の中犠飛、3回には万波の中堅左へ飛び込む10号ソロに上川畑のスクイズ、1死満塁からのエンドランと、怒濤(どとう)の攻めで一挙4点。3回までに6点のリードを奪った。

阪神でプロ生活のスタートを切った。この日、甲子園に到着するなり、故郷の博多弁で「(入団時に)『わぁ、広かね。甲子園は。福岡から来た新庄剛志です』って言ったの思い出しました」と苦笑い。「監督室に入った時、俺がここに座っているのが、めちゃくちゃ変な感じがした。この球場だけは」。阪神時代は、自身の性格が「暗かった」というBIGBOSS。厳しいヤジには「球場に来るファンは、お金を払っている分、ストレス発散していい」と、ある時期から割り切った。「ファンの圧がものすごいし、それで鍛えられた。ある意味、感謝」。鋼のメンタルは、監督業で生きている。

○…上沢が甲子園初勝利を逃した。序盤に打線の大量援護を受けたが、阪神大山に2本塁打を浴びるなど、中盤以降は失点を重ねた。チームも悪い流れにのまれて逆転負け。「序盤に点を取ってもらい、いい流れで来ていたにも関わらず、少しずつ点を返され、最終的には長いイニングも投げれずに降板する形になり申し訳ない気持ち」と、エースは自身の投球内容を反省した。

○…ルーキー上川畑がトリッキーなBIGBOSS采配に食らいついた。3回無死満塁で出されたサインはスクイズ。「BIGBOSSの野球では、絶対に(スクイズが)あると思っていたので、気持ちの準備はできていました」。きっちりと成功させた裏には、新庄監督の脳内を先読みしたファインプレーもあった。

【関連記事】日本ハムニュース一覧