苦節5年目、阪神熊谷敬宥(たかひろ)内野手(26)がプロ初のサヨナラ打で3連勝に導いた。5-5同点の延長11回2死二、三塁。右中間を破るタイムリーで4時間16分の熱戦に終止符を打った。プロ13本目のヒットが劇的安打。チーム屈指のイケメンは初めて立った甲子園のお立ち台で爆笑トークを展開し、満員札止めの聖地を盛り上げた。

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ライナーが右中間を深々と抜けていく。熊谷は無我夢中で仲間の手荒い祝福に身を任せた。「最高です! 何を打ったか覚えていないくらい、興奮していました。ここにいる人たち、まさか僕が打つとは思っていなかったと思う。いい意味で期待を裏切ったかなと思います」。5年目でともした13本目のHランプはあまりに劇的。チーム屈指の人気者が自虐的に話すと、笑いと歓声が湧き上がった。夢に見た甲子園のお立ち台。「360度阪神ファン。初めてなので新鮮でした」ととびきりの笑顔だ。

脇役でチームを支えるいぶし銀が主役になった。8回に代走で出場して三塁守備へ。そして同点の延長11回2死二、三塁。6番手山本の150キロ真っすぐをとらえた打球が右中間を破り、4時間16分の熱戦に終止符を打った。昨季は出場73試合でノーヒット。今季は4安打していたが、直近は15打席無安打だった。入場券は前売り完売の4万2085人の大観衆。“期待を裏切られた”ファンのボルテージは最高潮に達した。

内野は全ポジションOKで、外野も守れる俊足。もちろん途中出場は難しい。「慣れないです。自分にカツを入れながらやっている」。展開を見ながら緊張感を高め、代走、代打、守備固めと全てを想定し、出番をイメージしている。11日のオリックス戦では同点の11回に代走出場。二盗が相手の送球ミスを誘う間に快足を飛ばし、一気に決勝生還を決める“神走塁”も魅せた。

出場時間は短くても、試合前は最も活動量が多い選手で知られる。ノックはノーエラー、走塁練習では必ずMAXのスピードを出して手を抜かない。もちろん、控えに甘んじるつもりもない。昨オフ、同じ右の内野手の広島菊池涼に初めて弟子入りして自主トレ。打ち方から、捕球の形までそっくりになるほど必死に、技術を盗んだ。日々の地道な積み重ねを、野球の神様も見ていたのだろう。

矢野監督は野球への姿勢、貢献度を高く評価する。「脇役になっているタカヒロが最後決めてくれて。誰が決めてもうれしいけど、でも、ああいう必死にやっている選手が打ってくれるのはうれしい」。3連勝に導いた背番号4をがっちりハグ。最高のムードでDeNA、中日とのビジター6連戦に出発する。【柏原誠】

 

◆熊谷敬宥(くまがい・たかひろ)1995年(平7)11月10日、宮城県生まれ。仙台育英から立大。4年春は主将として同校の59年ぶり大学日本一に貢献。17年ドラフト3位で阪神入団。俊足を生かしたベースランニング技術に加え、堅実な守備にも定評がある。なお「熊谷」という姓の選手はプロ野球史上初。175センチ、68キロ。右投げ右打ち。

◆熊谷のサヨナラ打 プロ初のサヨナラ安打を放った熊谷は、仙台育英時代に甲子園球場でサヨナラ打を打っている。3年夏の13年8月10日、1回戦の浦和学院戦で9回2死一塁から左越え二塁打。11-10で勝った。この試合は1番遊撃で5打数4安打3打点。ちなみに仙台育英2番手で勝利投手の馬場皐輔は、同じ17年ドラフトで指名され阪神でも同僚になった。

◆1日に延長戦4試合 26日のプロ野球は4試合で延長戦。1日に4試合延長戦は13年8月10日以来、9年ぶり。このときは日本ハム-ロッテ戦が10回、ヤクルト-DeNA戦が11回、中日-阪神戦と広島-巨人戦が12回だった。

○…5番大山が2試合連続タイムリーを記録した。初回、近本が先制打を放った直後の1死二、三塁のチャンスで、中日柳の144キロを逆方向にはじき返す右前適時打で、2点の追加点をたたき出した。「コースに逆らうことなく、うまく打ち返すことができた」。5回2死からは中前打で出塁し、2戦連続のマルチ安打をマーク。「(自分の)状態よりも、試合に勝てたことが一番大きい」と、サヨナラ勝利に納得顔だった。

○…近本が自己最長の連続試合安打を23に更新した。初回無死一、三塁から柳の外角142キロ直球を捉え、左中間を破る先制の適時二塁打。「どんな形でも先制点を取りたいと思っていました。いい形で打つことができました」。これで2リーグ制後、球団では藤井栄治(68年7月31日~9月1日)に並んで6位となった。6月は34安打で、3試合を残して自己最多で20年8月の月間38安打まで4本に迫った。

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