阪神先発の藤浪晋太郎投手(28)が7回6安打無四球1失点と好投し、今季6度目の先発で初勝利を挙げた。433日ぶりの勝利の陰に秘話があった。

    ◇    ◇    ◇

藤浪晋太郎から珍しく興奮気味のLINEが届いた。キャンプイン2日前、1月30日の夜のことだ。

「鈴木忠平さんに伝えておいてもらえませんか? 今まで読んだノンフィクションの中で一番面白かったです、と」

鈴木忠平氏とは、記者が日刊スポーツ虎番時代に苦楽をともにさせてもらった先輩のこと。同氏が中日監督時代の落合博満氏を描いた著作『嫌われた監督』を読み切り、えらく心を揺さぶられたのだという。

取り急ぎ著者に伝言を渡し終えた後、いちプロ野球選手として琴線に触れたポイントを聞いてみた。

「定点観測、ですね。自分がブレないためにも、正しい物差しを持っておくことは大事なのだと、再認識させてもらいました」

間髪入れずの即答には力がこもっていた。

『嫌われた監督』の中で、落合氏は当時ドラゴンズの番記者だった鈴木氏に定点観測の重要性を度々伝えている。

〈同じ場所から、同じ人間を見るんだ〉

〈俺は選手の動きを1枚の絵にするんだ〉

毎日、同じ場所から眺めていれば、頭や手足が元々の位置からズレた時に気づくことができるのだと言った。

「そのズレにさえ気づければ、調子が悪くなった時も、戻るべき場所に戻ることができるはずなので」

藤浪は落合氏の言葉を脳内でかみ砕き、対象物を自分に置き換えた上でそう納得していた。

今季は新型コロナウイルス感染の影響もあり、ようやく初勝利。とはいえ、フォームには「安定感がある。不安が少ない」と手応えがある。

今まで以上に右足にパワーをため込んでから放出する。1月に巨人菅野に軸足の使い方を教わってから「いい感覚」をキープ。「今年は高い次元で悩めている。立ち返る場所がある」。春先の言葉を証明する時間はまだ残されている。

今後は常々口にする「再現性」をいかに高められるか。感覚にズレが生まれた時、どれだけ早い段階で気づいて修正できるかが、完全復活のカギを握る。

「やっぱり継続することが大事なので」

写真に動画…教材には事欠かない。藤浪が藤浪を定点観測する日々はまだまだ続く。【遊軍=佐井陽介】

【関連記事】阪神ニュース一覧>>