1964年に当時の日本記録、シーズン55本塁打を放ったソフトバンク王貞治球団会長兼特別チームアドバイザー(82)が、自身の記録に並んだヤクルト村上宗隆内野手(22)をたたえた。

「まだ5年目でしょ。5年目で他の選手を圧倒的に引き離して、チームの勝利にも貢献しているし、ファンの人の気持ちの中に強烈さを植え付けているというか、見せつけているというかね。5年目であれだけの強烈なことをやれるっていうのがすごいと思いますよ」。自身が55本を記録したのは、プロ6年目の24歳。まだ22歳、プロ5年目の若き大砲の偉業を大絶賛した。

アーチスト同士だからこそ、わかる感覚があるという。王会長は「打てる時ってのは打てちゃうんですよ。村上くんも多分そうだと思いますよ。みなさんからはすごいなと言われるんですけど、特別なことをやっているわけじゃないと思います。打てちゃうから打っているだけで。1年やってきたことを着実にやっているだけだと思う。本人にとっては不思議じゃないんですよ。不思議じゃないからもっともっと打てるわけでね。自分が感激したり興奮しているようでは打てない」と、独特の表現で分析した。

同じ55本でも、現代のプロ野球で達成した点にも言及した。王会長は「50本以上打つというのは大変なことですよ。1年を通して、春、夏、秋と季節も変わる。その間には体調とか調子もある。毎日同じというわけにはいかない。最近は相手もデータ、データで研究してくる。今は分業制だから1試合で同じ投手に4回当たることもあまりない。まして、(左キラーや抑えの)専門家が出てくる。それでホームランを量産するのは我々の時代より難しいことですよ」。データ分析など技術が進んだ時代での55発は、当時よりも難易度が高いとうなった。

868本。世界で一番多く本塁打を打った王会長は、村上の打撃をどう見ているのか。「飛距離がすごいですよね。ナイスホームランという程度のホームランと、すごいなと思わせるホームランはファンの人が見ても全然違う。そういうホームランが打てないと本数も増えない。あれだけの立派な体をしてドッシリして、それで少々泳いだり、詰まり加減になってもね。あの若さでそれをつかんでいるというのはすごいことですよね」と、パワーと技術を併せ持つ点を高く評価。加えて「今のような成績でも慢心しているように見えない。今が大事だと思って取り組んでいると思う」と、精神的な強さにも目を見張った。

誰よりも本塁打の魅力を知る王会長だ。「彼のホームランは今、日本で一番の強烈さを持っている。ファンの人はそれを楽しみにグラウンドに来てくれる。テレビじゃなくて実物を見てみたい、グラウンドに足を運んで、バットを振っているところを見てみたいと思わせる選手になったことがすばらしいね」。22歳の1打席、1スイングに注目が集まる状況を喜んでいる。

まだまだ未来のある村上の行く先も、楽しみにしている。「彼は5年目でここまで来たんだからね。5年目でここまで来た選手はいない。誰も歩んだことのないところを1人で歩いて行く。常に自分が切り開いていかないといけない。ここまでの歩みを見たら、彼は十分できると思うんですよ。打ったことは過ぎたことだから、次の1本にチャレンジしていけばいい」。目指せ、60本。目指せ、日本新記録。想像を超える躍進を心待ちにしている。

◆王貞治(おう・さだはる)1940年(昭15)5月20日、東京都生まれ。早実から59年に巨人入団。62年から13年連続本塁打王、73、74年に3冠王を獲得。756本塁打の世界記録を樹立した77年に、初の国民栄誉賞に。80年の引退まで868本塁打を打ち、本塁打王15度、打点王13度、MVP9度、ベストナイン18度。巨人、ダイエー、ソフトバンクで19年監督を務め、リーグV4度、日本一2度。06年WBCでは日本代表監督として初優勝。現役時代は177センチ、79キロ。左投げ左打ち。

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