気のせいだろうか。阪神大山悠輔は一塁送球をすくい上げた直後、少しだけ目尻を緩ませたようにも映った。

5時間7分にもわたった激闘の末、延長12回引き分けに持ち込んだ5日の甲子園ロッテ戦。虎が「負け」の可能性を消した瞬間が妙に印象深かった。

同点で迎えた12回表2死一、三塁。3番中村奨の三塁側への当たり損ねのゴロを湯浅京己がさばき、懸命に一塁送球。難しいショートバウンドを、主砲が巧みに捕球した場面だ。

はじけば確実に勝ち越し点を奪われていたシーン。大山の充実感漂う表情に注目したくなったのは、事前に覚悟を聞かせてもらっていたからかもしれない。

あれは今季開幕直前、3月中旬の甲子園だった。

初めて守備位置が一塁一本に絞られて迎えるシーズン。18~21年まで主戦場とした三塁へのこだわりはもうないのか? 何げなく尋ねると、間髪入れずに即答された。

「ないですね。その質問たまに聞かれるんですけど、本当にないです。今はファーストに命懸けるじゃないけど、それぐらいの気持ちでやっているので」

雑談を終えた後、こちら側の勝手な想像を大いに反省したものだ。

とっくの昔に気持ちを切り替えていた大山はそのまま一塁手の理想像も教えてくれた。

「巨人中田翔さんの守備は見ていてもすごい。ショートバウンドをはじくシーンをほとんど見たことがない。ああいう送球でも捕ってくれるという信頼感が他の内野手にあるだけで、全然変わってくると思うんです」

さらには甲子園で目に焼きつけたという、日本ハム清宮幸太郎の開脚キャッチからも学ぶべきポイントがあるのだと力説していた。

「自分の場合、ショートバウンド捕球にしても、まだまだ伸ばせる部分がある。もうちょっと柔軟性を上げられれば、ほんの数ミリの差でアウトにできるかもしれないので」

開幕後も試合前練習中に黙々と捕球練習を繰り返していた大砲。今季はすでにフォアハンド、バックハンドを問わず、何度となく難しいショートバウンド送球をモノにしている。

「『どんな球を投げても捕ってくれる』と思ってもらえるようになりたいんです」

打率3割1厘、7本塁打、38打点はセ界タイトル争いで2位タイにつける虎の4番。一塁守備でも仲間をサポートしようと、日々必死だ。【野球デスク=佐井陽介】