やられた-。悪夢の同点2ランが伊藤将の頭にちらついたのは、一瞬だった。9回2死一塁。DeNAソトの右翼への大飛球は森下のグラブに収まった。少し冷や汗を垂らしながら、マウンドで捕手坂本と抱き合った。クールな男が無邪気に破顔した。

「ヒヤッとしたんですけど、何とか森下が捕ってくれた。誠志郎さんがいいリードをしてくれました」

仲間への感謝が尽きない114球だ。9回6安打無失点。今季2度目、ビジターではプロ初完封で自身5連勝、チームトップタイの8勝目を挙げた。左肩違和感で約1カ月出遅れたが、勝負の夏場に白星を量産。今回は横浜高時代に慣れ親しんだスタジアムで、フル回転のリリーフ陣を救う1勝だ。岡田監督も「2日休みになったな(笑い)。フフ、今日、明日と」とニヤリだ。

サイ・ヤング賞右腕を打ち砕いた。4回にバウアーの154キロを捉え適時打を放ち「たまたまです」と照れ笑い。7回には152キロを華麗に流し打ちし、左前打でプロ初のマルチ安打を決めた。シーズン5安打はキャリアハイ。「最後、打たんでええって言うとんのに、『バット振ったら当たってしまいました』って言いやがって。アホかてお前、疲れるだけやのに」。岡田監督からは“おしかり”を受けたが、二刀流で波に乗った。

7、8月の2カ月で6勝を稼ぐ。夏になっても勢いは衰えない。その秘訣(ひけつ)は、実に庶民的なものだ。「寝る時の空調には注意ですね…」。

昨オフから始めた1人暮らしの自室、遠征先のホテルの一室。部屋の気温は「27度」にこだわる。「温度が低くなりすぎたらバテやすくなるので」。体が冷えすぎると、翌日の汗の出方も弱くなるという。汗でびしょぬれになったユニホームが、こだわりの証し。適温で上質な睡眠を導き、真夏にフル回転している。

「任すぞって言うた」と9回のマウンドを託した指揮官は「一番安定してるよ」と投球を絶賛した。貯金は今季最多タイ24。2年ぶりにDeNA戦のシーズン勝ち越しを決め、優勝へのマジックを26に減らした。「最高です!」。背番号27が、ヒーローインタビューで充実の汗をぬぐった。【中野椋】

○…2試合ぶりに3番に復帰した森下が守備でチームを救った。2点リードの9回2死一塁。ソトの右翼フェンスギリギリの大飛球をジャンプしてキャッチ。「フェンスが高かったんで、それをちょっと突っかからないようにジャンプして捕ったという感じです」。好守で試合終了を決めた。打撃は4の0で16打席無安打となったが、地元横浜でのカード勝ち越しに「本当に大きい。ハマスタのDeNAはすごく強いイメージがあるので」と笑顔だった。

▽阪神坂本(好リードで伊藤将を完封に導く)「カウント有利で進められたのでよかった。要所、要所で高さだとか、しっかり投げられた。(最後ソトの右翼への大飛球に)ヒヤヒヤどころじゃないですよ。森下(フェンスに)登れ! と思いましたよ」

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