阪神近本光司外野手(28)がシリーズMVPを受賞した。日本シリーズでは3人目となる14安打、打率4割8分3厘。虎のバットマンが打ちまくり、日本一へと導いた。

3年間務めた選手会長を来季から中野拓夢内野手(27)へバトンタッチし、また新たな景色を見るために歩み続ける。

  ◇  ◇  ◇

近本が天国の恩人に、そして愛する家族に、日本一のプレゼントを持ってきた。第7戦は4安打で、シリーズ計14安打は球団歴代単独2位。シリーズMVP受賞だ。試合終了後はセンターからゆっくり、最後に輪に加わり「あ~遠いな。俺が行った時には終わってるなと思いながら。でも、僕が一番歓声を聞いていたと思います」とかみしめた。

まだ大阪ガスでプレーし、サラリーマンとして勤務していた社会人時代。後悔していないと言えば、うそになるかもしれない決断がある。

「お金はためてたけど、欲しいものは買えなかったなあ…」

18年3月に中学時代の同級生である未夢(みゆ)夫人と結婚。関学大時代から「使うことがなかったから」と貯蓄に励んでいたが、理想の「指輪」には手が出なかった。当時は1人の男としての葛藤もゼロではなかったはずだが、思いを込めた一世一代のプロポーズで最愛の人を射止めた。

お金じゃない。自らが「価値がある」とほれ込めば関係ない。指輪もそう。戦闘用具のバットもそうだ。

昨年11月19日、大学時代から愛用するバットメーカー「ヤナセ社」の社長・柳瀬隆臣さんが72歳で亡くなった。同社の北村裕さんが「社長連れてくるわ!」と遺影を手にしてきたのは10月28日の第1戦のこと。試合前にプロで2人しかアドバイザリー契約を結んでいないオリックス福田とともに、記念写真に収まった。

アマチュアの選手に使いやすいバットを、と強く考えていた亡き社長だが、2人の「ヤナセ愛」に負け契約に至った過去がある。近本も「そんな何本もないよ、(自分に合う)バットなんて」と唯一無二の相性を感じている相棒。22年暮れには千葉の社長宅で合掌し覚悟を決めた。そこから、日本一への道のりは始まっていた。

来季から選手会長のバトンを中野に託す。少し休んで、これからも研さんを積んでいく。また新たな景色を見るために。【中野椋】

【関連記事】阪神ニュース一覧