白熱の一戦に決着をつけたのは早大・松江一輝外野手(3年=桐光学園)のバットだったが、そのバットはベンチ裏にあった!?

同点の9回1死一、三塁。小宮山悟監督(58)は、代走や守備固めの多い松江に言った。

「松江、行くぞ」

監督は笑って回想する。「代走ですか、俺? くらいの。あのきょとんとした顔は忘れないですね。バットを後ろに取りに行ってるぐらいだから、準備なんか全くしてない」。ベンチ前で仲間にペチペチといじられて打席に送り出された伏兵が、しぶとい適時打を右前に落としてみせた。

小宮山監督は8回表の同点機にも3人続けて代打を出している(うち1人は代打の代打)。この日安打を放っている打者にも、代打を出した。

「2回は続かねえだろ、ってそういう判断です」

そう笑い飛ばしたが、代打起用にはしっかりとした信念がある。

「それまでの練習してる様(さま)を見て、ですね。1週間かけてどんな感じかを考えながら。それこそシートバッティングなんかもうバットに当たらない、三振何個してるか分かんない、そんな感じでした。ただ、それ以外のバットを振ってる様は、バッティング練習中の1球1球大事に打ってる様も含めて、本人どういう思いで打席に立つかわからないんですけど、こちらとしたら十分準備をしているという、そういう判断をしてました」

いろいろと恐縮しながら小宮山監督のコメントを聞いている松江は、桐光学園(神奈川)から指定校推薦で入学した。早大は同校の野呂雅之監督(62)の母校でもある。

「自分は、野呂監督の教えている姿とかに憧れを抱いてて、同じ舞台で活躍したいなと思って早稲田を志望しました」

彼もまた、師の“様”を見て努力し、名門で心技体を磨いてきた1人だ。総動員で、苦杯をなめてきた明大にまず1勝した。

結果的に多くの好結果を引き出した小宮山監督はしかし、言う。

「(代打も継投も)本当に成功したから良かったっていう話なので。失敗してると、迷う采配のほうの迷采配って言われる、そういう起用法ですから」

そうやって冷静に見つめつつ「それも含めて勝負をかけて、勝負に勝ったということなので」。1勝には本当にいろいろなものが詰まっている。【金子真仁】