<さよならプロ野球>

 2014年も多くの選手が球界の第一線を退いた。「さよならプロ野球」で新たな人生を歩み出した元選手を紹介する。

 親友のグラブを手に、また戦いの舞台に戻ってくる。巨人から戦力外通告を受けた森和樹投手(21)は涙ながらに言った。

 2014年12月中旬、川崎市内の焼き肉店でのことだった。「プロ野球選手としてマウンドに立てなかったことは悔しい。でも指導者として未来ある生徒に、いろんなことを伝えていきたい」と決意した。10月1日に戦力外通告を受けた直後は、「死にたい。もう人生なんてどうでもいい」と投げやりだった。それから2カ月後に出た言葉には、熱がこもっていた。

 クラブチームや、軟式野球のチームから誘いを受けたが、選手としては区切りをつけた。年明けから都内の警備会社で会社員となる。「生きるためには仕事しないと。落ち着いてから、大学には通います。勉強は嫌いだけど、夢を諦めたくない」。高卒でプロ入りしたため、大学で教職課程の取得を目指す。朝から晩までは会社員として働き、夜は通信制の大学生。負担は大きいが、「これぐらいのことはしないと」と言い切った。

 未来へ走りだした今、1つだけ心残りがある。巨人スコット・マシソン投手(30)との約束を果たせなかったことだ。入団1年目から親交を深め、恋愛相談もする仲。今オフに「カナダにおいで」とマシソンから誘われた森は、「12月に行くよ。もう野球選手でなくなってしまう。直接ありがとうを言いに行くよ」とLINEの翻訳機能を使い、感謝の気持ちを込めた。

 森が支配下になった際に背番号「20」を譲るという約束までした兄貴分。ただスケジュールの都合上、願いはかなわなかった。森は「社会人になる前に1度会いたかったけど」と寂しそうに言った。だが、いつまでも忘れない。プロ野球選手としての夢は果たせなかったが、育んだ友情は温め続ける。「いつか指導者になったら、マシソンからもらったグラブで指導したいんです」と心に誓っている。【栗田尚樹】

 ◆森和樹(もり・かずき)1993年(平5)6月23日生まれ、千葉県出身。市柏から11年育成ドラフト1位で巨人に入団。13年に2軍で公式戦デビューも1軍出場はなし。185センチ、93キロ。右投げ右打ち。