<巨人3-3ヤクルト>◇4日◇東京ドーム

 首位巨人が「ウルトラC」の連発で、今季セ・リーグ最長の5時間27分の引き分け劇を演じた。途中交代、負傷退場などで3人の捕手がいなくなり、延長12回からユーティリティープレーヤーの木村拓也内野手(37)が10年ぶりにマスクをかぶった。急造捕手は3投手を無難にリードし敗戦を防ぎ、チームを救ってみせた。さらに2度も打球が天井に当たる安打が「吉」となった。執念のドローで優勝マジックは19に減った。

 経験したことのない不安と緊張で、アウトカウントなど忘れていた。12回表2死一、二塁。“急造捕手”の巨人木村拓は、野間口の151キロ内角直球をガッチリとミットに収めた。空振り三振でチェンジ。これで、後攻の巨人の負けはなくなった。少しの間、捕球したままの体勢でいると、東京ドームをつんざく大歓声で気が付いた。「あっ、終わったんだ」。興奮した原監督から抱きつかれるようにして肩をたたかれた。「とにかくホッとした」。体中から力が抜けた。

 球団史上最大、と言ってもいい緊急事態だった。11回裏の攻撃で途中出場した捕手の加藤が頭部に死球を受けて、プレー続行が不可能になった。一塁で先発した正捕手の阿部も、先発マスクをかぶった2番手捕手の鶴岡もすでにベンチに退いていた。捕手登録されている3人はもういない。ベンチ裏にいた木村拓は「おれしかいないじゃん」とつぶやいた。19年前、捕手としてプロ入り。広島時代の99年以来、10年ぶりとなる捕手での出場への準備をすぐに始めていた。

 味方は攻撃中だったが、防具はブルペン捕手から、ミットは「一番柔らかいものが欲しい」と鶴岡のものを借りた。借り物に身を固めてブルペンへ向かい、登板予定の豊田の球を受けた。数分後、自軍の攻撃は無得点に終わり、試合は延長12回に突入。原監督が「捕手木村拓」を球審に告げると、覚悟を決めてグラウンドへ飛び出した。

 先頭の田中は中飛に打ち取った。「豊田さんは直球とフォークしかないから。体を張って止めればいい。…と、思ってたら、藤田も出てきて。球種が多くて大変でした」と胸をなで下ろした。首脳陣からは「サインはベンチから出す」と言われていたが、実際にマスクをかぶるとそんな余裕はなかった。投手とのサイン交換もスムーズにこなす。多彩な変化球を操る藤田、野間口を無我夢中でリードして3つのアウトを取った。今季セ・リーグ最長5時間27分、ゴンザレス以外のベンチ入り24人が出場した総力戦。サヨナラ勝ちはならなかったが、引き分けで優勝マジックは19に減った。

 投手以外の全ポジションを守ったことのある現役唯一の選手は「こういう生き方をしてきてよかったなと思います」と胸を張った。プロ野球選手としてのプライドが、折れそうな心を支えた。「冷静に見えた?

 そんなことはない。やりづらかったですよ。心臓はバクバク。恥ずかしくて…。照れもあった。でも、そんなところを見せたら、相手チームにもファンにも失礼」。急造という意識は捨て、プロの捕手を堂々と演じた。【広瀬雷太】

 [2009年9月5日8時3分

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