<阪神5-0広島>◇20日◇甲子園

 まさにアニキ効果だ。阪神が広島に完封勝ちで2位を守った。右肩痛で2試合連続してスタメンを外れた金本知憲外野手(42)の代役左翼の狩野恵輔捕手(27)が、1点先制直後の4回2死一、二塁で中越え1号3ランを放った。投げては先発の下柳剛投手(41)ら4投手で完封リレーした。金本の連続フルイニング出場が1492試合で止まってからチームは2連勝で、金本のスタメン復帰まで投打が踏ん張る。

 ベンチの金本の顔がクシャクシャになった。4回、1点を先制してなおも2死一、二塁。自分の代わりに左翼に入った狩野が、広島斉藤の122キロど真ん中のチェンジアップをたたいた。前進守備の中堅赤松はターンしただけであきらめた。連勝を決定付ける打球はバックスクリーン左に飛び込んだ。

 狩野は長打力と勝負強さをかわれ、8番・左翼で今季初スタメン出場。初安打が1号3ランになった。本職の捕手ではなく、外野手としての1号にもなった。ダイヤモンドを1周すると、チームメートの手荒い歓迎が待っていた。その中に、笑顔の金本がいた。「それが本当にうれしかったです」。狩野コールを浴びながら左翼まで走った。「もう、涙が出そうだった」。帽子を取って応えた。

 初めて守る甲子園の左翼。「ジムも一緒でいろいろ教えてもらった。迷惑を掛けないように、名前を汚さないようにと思っていました」。金本の通う広島市内のジム「アスリート」の門下生。金本の鬼の形相を見て来た。「覚悟を決めて臨みました」。捕手の経験をいかして配球を考えながら守備位置を変えた。ベンチに戻ると、金本から身ぶり手ぶりを交えた親身のアドバイスを受けた。10本の打球をミスなくさばいた。

 3年前の07年4月20日巨人戦(甲子園)では、プロ初安打がサヨナラ打になった。「印象の一打ですから、なかなか忘れられない日です」。再び忘れることのできない日になった。

 投げては41歳のベテラン下柳が踏ん張った。立ち上がりからピンチの連続。ただ、ホームベースだけは踏ませない。序盤は丁寧に低めを突き、ヒットも単打でとどめた。ボールが浮いてきた中盤も要所を締めて6回を8安打2四球。「あれだけ打たれたのに、野手のみんながよくキレずに守って、よく打ってくれました」。5イニングで得点圏に走者を背負いながら、無失点投球で今季初のチーム完封へとつなげた。

 縦じまに袖を通して175試合目。左翼に金本がいないのは初めてだ。同じ68年生まれで、同じ03年阪神移籍組。他人には計り知れない、深いきずながある。連続フルイニング出場が途切れた際は「カネが決めたことやから…」と思いは胸にしまった。言葉はいらない。背中で気持ちを示したかった。打たれても打たれても、立ち向かった。過去にFA宣言した際には、金本から「残って一緒にやろうや」と電話をもらったこともある。ベンチから見守った金本のためにも負けられなかった。

 狩野、下柳だけではない。チームの誰もが金本の思いを胸にプレーし、勝利のために1つになった。

 [2010年4月21日9時45分

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