<阪神3-4横浜>◇30日◇甲子園

 「最高の野球人生を送ることができました。またいつか、甲子園で会いましょう!」。20年の現役生活に別れを告げた阪神矢野燿大捕手(41)が本拠地甲子園の今季最終戦で引退セレモニーに臨んだ。逆転優勝が限りなく遠のく悪夢の1敗に試合で出番は訪れなかったが、一塁ベンチで声をからした。最後までともに戦ったナインから胴上げされ、タテジマに別れを告げた。

 大粒の涙がこぼれた。矢野は逆転3ランを浴びた藤川を抱き、一緒に泣いた。「これまでお前のおかげでいっぱいエエ思いをさせてもらったよ」。スタンドからは「矢野コール」が起こり、9回1死一塁か、2死になればラストマスクを被る予定だった。まさかの被弾で黄金バッテリー復活と自身の現役ラスト出場はかなわなかった。しかも引退試合で自力優勝が消える悪夢。だが球児に抱く感情は「感謝」しかなかった。

 引退報告の日。「手術すれば来年、間に合うじゃないですか!」と怒り「もう1回だけ、僕の球を受けて下さいよ」と電話口で切なく泣いた守護神。しかもこの日の登場曲を矢野の「HERO」に替えてまで、夢を実現させようとした心意気だけで、胸はいっぱいだった。「2回の優勝とか、球児でどれだけの幸せをもらえたか。最後、球児が打たれたら仕方ない。誰も文句なんて言わへん」。悔いなき現役最終戦だった。

 「龍馬がゆく」を愛読し、NHK大河ドラマも観るほどあこがれる坂本龍馬の言葉に、次の一節がある。「男なら、たとえ、ドブの中でも前のめりで死ね」。今年再発した右ひじ痛は深刻で、猛暑の鳴尾浜での「修行」は想像を絶する過酷さだった。だが最後まで奇跡を信じ、厳しいリハビリに耐え続けた。「笑顔が最高だからと、僕との2ショット写真を半分で切って、遺影にしてくれたおばあちゃんもいた。絶対裏切れない」。応援してくれるファンのため、限界まで挑戦し続けた20年間の野球人生は、最後まで「必死のパッチ」で「前のめり」だった。

 長女晴菜さん(11)、二女瑞季さん(8)の2人の愛娘から花束を贈られるとまた、熱いものがこみ上げた。チームメートからはマウンドで天高く7回の胴上げ。金本や2軍から駆けつけた下柳とも熱く抱き合った。お別れスピーチでは「最高の野球人生でした。またいつの日か、甲子園で会いましょう!」と指導者になって帰ってくることを約束。そして仲間には、ラストメッセージを託した。

 「あきらめることはない。勝つしかない。もう1回最後の力を振り絞って、ファンのために頑張ってほしい」。優勝の可能性のある限り、ネバー・ギブアップだ。矢野魂を受け継ぎ、奇跡を起こせ!【松井清員】

 [2010年10月1日11時3分

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