<西武3-3日本ハム>◇1日◇西武ドーム

 「150キロ」。今季初登板の西武菊池雄星投手(21)が、越えなければいけない“壁”を乗り越えた。この日の44球目に投げた直球が、150キロを計測。花巻東時代に最速155キロをマークするも、プロの1軍では未経験だった領域に足を踏み入れた瞬間だった。勝利投手にはなれなかったものの、原点回帰の投球フォームで生んだ大台は、菊池にとって「進化」と今後への「糧」が詰まった1球だった。

 3回2死、2ストライクからの3球目だった。「きれいに決めたい」。西武菊池はがむしゃらに腕を振った。体が反転しそうになるほど、力を込めた直球。スコアボードに表示されたのは「150キロ」だった。1軍のマウンドで初めて、大台に到達。どよめきが起こったが、ストライクゾーンから大きくそれた。

 6球団競合の末に、西武に入団。付きまとったのは、150の数字だった。1年目はケガに悩まされ、2年目はプロ初勝利を挙げたが、あと2キロ届かず。高校時代に最速155キロをマークした青年に、周囲が期待するのは150キロの剛速球だった。今季はスリークオーターから上から投げおろすフォームに変更。150キロの直球を追い求めたが、結果を出せなかった。

 悩める日々に終止符を打ったのは、大きな決断だった。6月中旬、2軍投手コーチとの話し合いの末、高校時代のスリークオーターへの回帰を決めた。

 菊池

 フォームのことで悩むのは、もうやめようかなと。自分の気持ちいいところで投げようと思ったんです。僕の武器はクロスに入るボールなのに、カーブにこだわりすぎて、ボールに角度がなくなっていて。

 題材に選んだのは高校時代の映像だったが、そこには進化があった。昨オフ、1日5~6食をノルマに掲げ、ウエートトレーニングで強化。渡辺久信監督(46)が「馬の尻みたい」と目を見張ったほどの下半身が、成果の跡だった。体重は83キロから90キロに増加。高校時代155キロを計測した投球フォームに、強靱(きょうじん)な肉体が加わったことで、大台をたたき出せた。

 進化の証明とともに、糧にもなる1球だった。150キロを計測した後、四球と安打でピンチを広げ、杉谷に痛恨の3ラン。試合後、渡辺監督は「150キロはいいんだけど、あのボールで完璧にバランスを崩した」と指摘した。菊池も「150キロは出せたけど、切り替えられなくて。次はスピードを気にせずに投げます」と反省した。大台を超えた次戦に、菊池の3年目の真価が問われる。【久保賢吾】