<オリックス5-6ロッテ>◇5日◇京セラドーム大阪

 9回のマウンドはロッテの新人益田直也投手(22)にとって未体験の空気感だった。開幕戦のプロ初登板時は「全然、緊張しなかった」。緊張とは無縁だと思われた。だが、初めて守護神の場に立たされると「今までと全然、違う」。チームは大不振で3位転落の危機。守護神だった内の右足首痛による登録抹消で、益田が最後のとりでだった。1点リードの9回、重圧がのしかかった。

 オリックスは1番からの攻撃。「1人出ると(4番)李大浩に回る。2点差なら1発もOKだけど、1点差だからサヨナラになる」。最速148キロの直球、球宴でオリックス平野に助言を受けたフォークを投じる。後藤を中飛に仕留めてプロ初セーブを挙げると、快感が体を突き抜けた。「メッチャ気持ちいい!」。守護神のみが味わえる至福の瞬間だった。

 挫折を味わったからこそ、9回の重さを知った。ドラフト4位は開幕からセットアッパーに定着。6月まで防御率1点台をキープしたが、疲労蓄積やフォームの悩みで7月に失速した。球宴前の同17日の楽天戦でプロ初黒星、翌18日は1死も取れずに交代させられ、初めて涙を流した。

 だが仲間から言われた言葉で、よみがえった。「背中に抑えてやるという気持ちが見えない、春先はそんなんじゃなかったと言われた」。技術以上に精神力が大事な時がある。原点に立ち返り、球宴後、5戦連続無失点と立ち直った。

 この日は女手一つで育ててくれた母しのぶさんも観戦。プロ初登板の夜に「今年はハラハラさせないように抑えるから見てて」とメールした。当時は最終回を投げる姿を想像もしなかった。チームにとっては7月7日以来のセーブで、球団の新人セーブは5年ぶり。「期待されての9回。それに応えられる投球をしたい」。新人の守護神は92年の河本以後は出ていない。まだ守護神に定着したわけではないが、最終回を務める覚悟はある。【広重竜太郎】