<巨人12-7DeNA>◇5日◇東京ドーム

 5発すべて甲乙つけがたし-。巨人は3年ぶりの1試合5本塁打でDeNAに圧勝した。同点の3回、亀井善行外野手(30)が今季1号ソロで先陣を切り、高橋由伸外野手(38)が故障からの復活を印象付ける1号2ランで続いた。4回には村田修一内野手(32)が1カ月ぶりの9号満塁弾で試合を決めた。5回は亀井が2本目、坂本勇人内野手(24)が130メートルの特大弾を放った。本拠地東京ドームで巨人らしい破壊力を示した。

 東京ドームがキッチンスタジアムと化した。今季最多4万6119人の大観衆は、“4人のアイアンシェフ”が提供した至高のフルコースとも言える5本塁打で満たされた。

 オードブルで甘美の世界に誘ったのは亀井だった。3回1死、シャープなバットがしなり、打球を右翼席へ運んだ。バットのモデルはイチロー。細い棒のように中心部分を3ミリ削った。「細いからしっかり握れる。しなりがいいから飛ぶ」。隠し味を明かしたのは左ふくらはぎ肉離れからのリハビリ時。「今は書かないでください。そんなこと言っている場合じゃない」。初夏に生まれた今季初本塁打。「ホームランは1人で1点取れる。気持ちいい」。やっと浸れた。

 暑い夏に合う冷製スープで“食欲”を刺激したのは38歳の4番高橋由。3回1死一塁、1号2ランは美しい放物線だった。開幕直後に左ふくらはぎ肉離れで3カ月の離脱。待望の1号が生まれるまで焦燥感もあった。「だいぶ時間が空いた。このまま出ない不安もあった」。準備だけは怠らなかった。硬いグラブを試し、昇格前にはバットケース、バットを新調した。「いろいろやれることはあるから」。不変だったのは10年来、基本形を変えていないバットと健在の打撃技術。鉄板の味だった。

 3品目は“魚料理”。4回2死満塁。大海原に跳ねるカジキマグロのような豪快な9号満塁弾を村田は放った。満塁時は11打数無安打だったが、吹き飛ばすように最深部のバックスクリーンにかました。「久しぶり。打ち方をもう少しで忘れるところだった」。不振時は飛距離を欲しがり、バットのヘッドを投手方向へ傾けすぎた。その悪癖に気付き修正。そして昨年終盤から取り入れていた上段の構えも位置を低くした。1カ月ぶりの至福の味だった。

 亀井が濃厚な“肉料理”で観客の歓喜を頂点に誘った。5回2死二塁、2ランは3年ぶりの1試合2発。09年WBC代表だった男は苦しんだ。その間、元阪神金本、ロッテ福浦からバットを譲り受け、試行錯誤した。救いの手を差し伸べてもらった感謝は忘れない。今年5月に初昇格する時に高卒ルーキー辻に「お前はこれを振れ」と1・5キロのバットをあげた。「同じ左打者だし、期待されているみたいだから」。受け継がれた料理道具を託した。

 “デザート”は別腹だ。5回2死、坂本の8号ソロ。内角球を肘を畳み、腰の回転で2階席へ。難解なコースで130メートルの飛距離を生み出す“パティシエ”は数少ない。「ド会心。1年に1回あるか」。打撃練習からクイック投法などを想定してタイミングを変える。そして身に付けた調理法でフルコースを締めた。

 “総料理長”の原監督は「今日のようなゲームはそうはない」と言った。巨人ファンの誰もが幸福感に包まれながらテーブルを後にした。【広重竜太郎】

 ▼巨人は2番亀井2本、3番坂本、4番高橋由、5番村田が本塁打。高橋由が4番で打った本塁打は11年8月21日ヤクルト戦以来で通算32本目になる。巨人の1試合5本塁打以上は、10年8月26日中日戦の6本以来、3年ぶり。クリーンアップトリオがそろって本塁打は11年10月6日横浜戦で3番長野、4番阿部、5番ラミレスが記録して以来だが、03~11年にマークしたケースにはすべて外国人選手が含まれており、国産クリーンアップでそろい踏みは02年8月14日ヤクルト戦の3番阿部、4番松井、5番江藤以来だった。