<ソフトバンク3-2オリックス>◇27日◇ヤフオクドーム

 昨年6月に国指定の難病・黄色靱帯(じんたい)骨化症の手術を受けたソフトバンク大隣憲司投手(29)が、422日ぶりの白星をつかんだ。復帰2戦目、初先発で7回を3安打1失点。この病気からの復帰勝利は史上初。首位攻防戦に3連勝したチームは4連勝。2位に1・5ゲーム差をつけた。

 秋山監督の大きな手でゴシゴシと頭をなでられ、感じた。特別ユニホームで赤く染まった客席を見て、思った。「すべての関わってくださった方々に感謝したい。1日も早く、このマウンドに帰ってきたいという気持ちでした」。歩くことさえできなかった自分がお立ち台にいる。「本当にありがとう」。大隣の気持ちのすべてだった。

 2週間前に中継ぎで408日ぶりに登板。この日が先発として本当の“復帰戦”だった。1回にバトラーの二塁打で先制されたが、ここから1度も得点圏を許さない。「いい意味で力が抜けた。やっぱり1軍のマウンドに戻って得るものがある」。痛みや下肢のしびれのあった術前より滑らかなフォーム。右打者の懐に直球とスライダーを突っ込んだ。チェンジアップは新たに左打者にも使った。7回1失点。422日ぶりの白星でよみがえった。

 2万人に1人が発症する難病と診断され、昨年6月に神経を圧迫していた靱帯を削る手術を受けた。発症後は下半身のしびれが抜けず、足の大きさが2倍に感じた。術後のリハビリでは、失った足の感覚を戻すため「熱い、熱い」と言い聞かせながら熱湯をかけた。優子夫人に足の裏をくすぐってもらい、神経の回復を確認した。

 ただ「今も左足は皮膚の上に薄皮が1枚ついている感じ」と言い、何をもって完治かは分からない。同じ病気を患い、闘っている人がいる。その1人、亜大の花城直投手(3年)には同校OBの東浜を通じて色紙を届けた。「ならないと分かってもらえない。自分の姿が少しでも励みになるなら」。支援活動も考えるが、今は左腕を振るだけだ。

 前夜、ルーティンも復活していた。かつてのように優子夫人特製の唐辛子抜きペペロンチーノとタイの尾頭付きを食べて出陣した。支えてくれた夫人にもお立ち台から「苦しい時でも常に明るく、プラスの言葉をかけてくれて、ありがとう」と呼びかけた。「このマウンドに上がれた喜び、うれしさを忘れず、頑張りたいです」。登場曲はヒップホップ系のAK-69「START

 IT

 AGAIN」だった。大隣の2度目の先発人生が始まった。【押谷謙爾】

 ◆黄色靱帯骨化症(おうしょくじんたいこっかしょう)

 国指定の難病。脊髄の後ろにある椎弓(ついきゅう)と呼ばれる部分を上下につなぐ黄色靱帯が骨化し、脊柱管内の脊髄を圧迫する。下半身のしびれ、まひなどの症状が発生し、歩行が困難になる場合も。プロ野球では元オリックスの酒井、巨人越智らの投手が手術を受けている。