米大リーグ・エンゼルスに所属する大谷翔平選手の活躍が止まらない。彼の快挙は誰もが知る周知の事実だろう。そんな大谷選手を「すごい」「異次元」といった言葉だけで終わらせず、今回は僕なりの視点で挑戦することの意味を深掘りしてみたいと思う。
大谷選手をはじめ、イチローさん、中田英寿さんなど、一流と呼ばれるアスリートは「誰かに教わる」という感覚がないのでは、と僕は感じている。冷静に考えると、投手として160キロの剛速球を投げ、ホームランをバンバン打ち、なおかつそれをメジャーリーグでやってのける。これは世界を探しても現状では大谷選手しかいない。ということは、それを教えられる人はこの世には存在しないに等しいのではないか。唯一、存在するとすれば、それは大谷選手自身だけではないだろうか。
僕と比較するつもりはないが「挑戦」という項目においては共通点がある。それは、その道に到達するまでの「教科書」は存在していないということだ。40歳からJリーガーになることも、メジャーリーグで二刀流として大活躍することも、ともに教科書やマニュアルはない。どうするかを考え、選択し、決断、そして実行までを全て自分でやらなければならない。もちろんアドバイスという視点であれば多くのサポートがあったのは事実だが、それはあくまでも自分が選択し、決断して実行した上でのアドバイスなのだ。
大谷選手のようなトップアスリートになるためには努力はもちろん、それを下支えする基礎も重要だ。その基礎について少し考えてみたい。学校の部活動などでも基礎は重要だとよく教えられる。間違ってはいないが、その基礎の先に表現がないとも僕は感じている。
例えば、音楽では何かのコンクールに出て、そこで賞を取らなければ次のステージには進めない。そうなると多くの人は審査員にウケるための音楽をしてしまう。カラオケで点数を取る歌と自分が表現したい歌では点数に差がついたとしても、感動は後者の方が大きくなるのではないだろうか。コンクールで賞を取ることは悪くないが、それが目的になればその先でお客さんを喜ばせたり、感動させたりすることはできなくなる。自分が自分の未来にワクワクできていなければ、感動を生み出すことはできないだろう。
だからこそ挑戦をする人は「自分教育」をもっともっと高めるべきだと感じている。それは誰もがやらない、奇をてらうような感覚的なことではない。基礎を徹底して、その上で既存のルールを外して自己表現できるかどうか。子どもたちには「教えてもらう教育」から「自分で自分を磨く教育」にシフトしてもらいたい。
大谷選手に話を戻すと、彼がすごいのは結果を出しているからという一面的な見方ではなく、多くの意見があっても二刀流を貫こうとした彼の人間性と、そこにメッセージ性があったこと。だから僕らは彼の快挙に感動するのだ。挑戦するということは、まだ見たこともない景色を見たいと思うことで、やったこともない努力を重ねようと実行に移す自分がいることを知れるということ。そして、その挑戦の結果がどちらに転んだとしても、そこで初めてその結果をどう捉えるかという新しい問いが自分に降りかかってくる。挑戦しなければ出会えなかった新しい「人生の問い」に対して、自分がどんな選択と判断と決断をするのか。それが人生の醍醐味(だいごみ)だと思う。
あくまで僕の仮説だが、大谷選手は誰かに何かを教えてもらうというスタンスではなく、自分への学びを増やす時間をたくさん作っているのではないだろうか。自分への学びを増やせば、そこに「なぜ?」「どうして?」とさまざまな疑問が浮かぶ。その疑問は好奇心へと変わり、自己追求を強めてくれる。向上心では好奇心には勝てない。まだ誰も見たことがない世界。それは大谷選手自身が一番見たいと思っている世界なのではないだろうか。
僕は秋の格闘技イベント「RISE」と年末の「RIZIN」に出場したいと思っている。それは僕がこの世の中に対して伝えたいことがあるからだ。格闘技で鍛えられる精神で、この世の中の停滞感や生きづらさを打破したいと思っている。
大谷選手から挑戦する素晴らしさを感じることができたのは自分が挑戦者だからだと思う。彼の活躍は自分にもできることがあると思わせてくれる大切なメッセージだと感じている。読者のみなさんにも事の大小ではなく、自分がやりたいと思ったことへ挑戦してほしい。そんなことをみんなで語り合える世の中にしたい。
◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設。21年4月に格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー。175センチ、74キロ。
(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)



