今を生きることが幸せ。いつからか人は「仕事」と「仕事以外」という考え方が主流になってる。やりたくもない仕事を頑張り、週末に飲んだり遊んだりする。その結果、また月曜日から苦しい時間が始まる。

なぜ通勤ラッシュを我慢する必要があるのだろうか。そこにはどんな理由があるのだろうか。気がつけばお金は我慢の対価となっている。どれだけ自分の時間を割いて我慢したかでお金をもらっている。それでは人生が台無しだ。

残業をやって残業手当が出ないという人がたくさんいるが、それも僕には理解できない。僕は自分がやりたいことなら帰宅が何時になっても構わない。日が暮れようが、朝日が出ようが、好きなことならいつまででもできる。そこに対価を求めることなどない。

いつから現代人は、生きるための生活費ではなく、生活費のために生きるようになってしまった。主従が逆転し、オンとオフを作り、我慢の上にお金を稼ぎ、楽しくもない仕事をして、人の愚痴を言い、ゴシップを喜び、そして疲弊する。

ずっと疑問だったこの縮図にひとつの答えが見えた。それはほとんどの人の判断基準が「お金」だからだ。お金の高いものに価値があり、稼いでいる人が正義で、そこに憧れる。でも、それはなぜだろうか?外車に乗って、豪邸に住んで、いい暮らしをしている人が成功者と誰が決めたのだろうか。もちろんお金がなくて食べるものに困るのは違うかもしれないが、もしそれを望んでいるならそこに正解も不正解もない。

僕には「学校を作る」という夢がある。その学校は偏差値とは無縁の学校。今の学校は全て偏差値の傘の下にある。福沢諭吉も大隈重信も伝えたいことを伝えるために学校を作った。しかし、今は全てが偏差値で成り立ち、受験のためのテスト勉強をさせるのが学校となっている。僕はそんな現代に一石を投じたい。

偏差値というひとつのものさしで人の能力を測ることは非常に危険である。それは人の能力の中の小さなひとつでしかない。現代は人を判断する基準がそれに頼りすぎている。僕は違う判断基準を作るために、Jリーガー目指し現在格闘家としても戦っている。すべては伝えたいメッセージがあるからだ。

現代は学歴とは無縁の人が成功する世の中になっている。その人たちの共通点が熱量だと思う。テストの点数だけではなく、人が持つ熱量で価値を測ることができたら今とは違う世の中になる希望が見えてくる。どう考えても現代に足りないのは熱量。まずはやってみるという熱量が足りなすぎる。みんな何かにビビり、根拠や証拠を求める。イノベーションに根拠などない。

僕がJリーガーになれたのは間違いなく情熱という熱量が異常にあったからだ。その結果多くの人を巻き込むことができた。自分が好きだと思うことには没頭できる。子どもがご飯の時間を忘れてずっとゲームができるのはものすごい才能なんだ。僕はそれは人間、誰もが持っている能力だと思っている。

こうやって話すと「好きなことがない場合はどうしたらいいのか?」という人が出てくるが、僕から言わせてもらうとそれは甘えにすぎない。好きなことがないなら見つかるまで何もしなければいい。それをせず生活するにはお金が必要だと言って我慢と時間を引き換えにお金を求め始める。

そんなことをしていて好きなことなど見つかるはずがない。生活費のために生きたら全てが終わる。まずするべきことは仕事と仕事以外という考え方をやめること。そしてオンとオフという概念を捨てて、自分の人生でフォーカスする。自分の人生にBettするんだ。そこからしか本当に楽しい今を生きることはできない。

僕が目指す学校は、今を必死に生きることが幸せだと感じられる判断基準を持たせる場所だ。今の固定観念ではイメージすらできないと思うが、その先入観こそ現代に住む魔物であり、大人たちが高みの見物をできる要素なんだ。

なぜ人は思ったように生きてはいけないのだろうか。なぜ好きなことに没頭して生きてはいけないのだろうか。なぜ嫌いな人と会って嫌な思いをしてまで仕事をしなければいけないのだろうか。社会とはそういうものだというが、本当にそうなのだろうか。

プライベートとは「自由にされた(privatus)、解放された、国から離れた」が語源とのこと。仕事の奴隷になっている人がやたらとプライベートを主張したがるが、その意味が語源をたどるとよくわかる。結局、現代は強制的な奴隷ではなく、自らが奴隷になりにいってる。しかも、それは無意識のうちに。

そんな生き方をしなくていいのに、なぜかそれが当たり前で常識で普通となっている。その固定観念を壊し、先入観を壊し、常識を壊す。この視点に立って物事を見ない限り、一生オンとオフは付きまとい、気がつけば人の揚げ足を取り、文句を言い、鬱(うつ)になる。日本社会の負のループを壊すのは、政府でもなければ企業の社長でもない。自分自身が変わらなければ何も見えてこない。

迷いは行動前。悩みは行動後。止まっているうちはずっとそこで迷い続けるだろう。その代わり、動きだせば、その選んだ道を正解にするために悩むだろう。どっちが幸せか。それは今を生きるという観点で言えば明らかに後者である。(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設。21年4月にアマチュア格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー。22年8月に同大会75キロ以下級の王者に輝いた。プロとしては22年2月16日にRISEでデビュー。同6月24日のRISE159にも出場し、2連勝。同10月23日にはスイス・チューリヒで開催された大会「ノックアウト・ファイトナイト8」に参戦し、スイスのパトリック・カバシ(28)と引き分け。同12月9日の「EXECUTIVE FIGHT BUSHIDO~皇~」で再びカバシと対戦し、KO勝ちした。175センチ、74キロ。

スイス・チューリヒで開催された格闘技大会「ノックアウト・ファイトナイト8」で対戦した安彦考真(左)とパトリック・カバシ
スイス・チューリヒで開催された格闘技大会「ノックアウト・ファイトナイト8」で対戦した安彦考真(左)とパトリック・カバシ