打ち出し前の弓取り式。巡業部の花籠副部長(関脇太寿山)は緊張した面持ちで土俵上を見つめていた。「だいぶ良くなってきましたよ」。大相撲夏巡業が北海道・函館市で行われた16日、弓取り式を務めていたのは横綱鶴竜の付け人、幕下将豊竜(22=時津風)。横綱同士の結びの一番が終わって登場した将豊竜は、大歓声の中で堂々と儀式を全うした。

弓取り式も“危機管理”が問われているようだ。7月28日から始まった今巡業ではここまで20日間、弓取り式は横綱白鵬の付け人、三段目春日龍(35=中川)と将豊竜が半分ずつ務めた。昨年春場所から主に春日龍が担当していたが「もしものことがあったら、困るからね」と花籠副部長。伝統儀式の大役を務められる力士が1人では心もとない。巡業で見せ物として人気の初っ切りも、不測の事態に備えて「3人目」を常に準備させているが、弓取り式は用意していなかったため、4月の春巡業中に「できるか?」と将豊竜に打診したという。

その春巡業で3度、弓取りを務めた将豊竜は当時「もう全然ダメです…。動きが硬くなってしまった」と肩を落としていた。素人目には分からなかったが、ぎこちなさが抜けなかったという。今巡業でも、付け人業務の合間を縫って練習している様子で「まだまだ全然勉強の身。春日龍さんに教わりながらです」と謙虚に話していた一方、花籠副部長は「安定感が出てきましたね」と目を細めた。

なぜ将豊竜を選んだのか? ズバリ選考基準は「度胸があるかどうか」。フィーリングで決めたという。幕下ではあるが、将豊竜は170センチの小柄な体格でその番付まで上がっているだけに「それなりの度胸があるということ」と花籠副部長は評価する。てっきり手先の器用さなどを加味しているものかと思っていたが、それらを超越したものが大事らしい。

花籠副部長は「(25日の)KITTE場所でもできたら。まだ決まってはいないけど(秋)場所でも3日くらいやらせてみようかなと思っているよ」と話していた。本当にデビューするかどうかは分からないが、そのときは要注目だ。

【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)