日本ボクシング連盟は4月15日、ロンドンオリンピック(五輪)のミドル級金メダリストで、WBA世界同級王者の村田諒太(34=帝拳)が、東京五輪内定者と世界最終予選(時期、場所未定)出場者11人を対象にしたオンライン講義を行うと発表した。

18日に、五輪を見据えた取り組み方や、質疑応答で“金言”を授ける。日本ボクシング史に金字塔を打ち立て続ける希代のボクサーが、アマチュアの「金の卵」たちの成長に一役を買うことになる。

くしくも2年前の4月15日は、村田にとってまた1つ新たな偉業を遂げた日だった。WBA王者として迎えた初の防衛戦、同級6位のイタリア人、エマヌエーレ・ブランダムラを迎えての一戦。かかっていたのは、日本人ミドル級王者として初防衛に成功するかどうか。

過去に同級王者となったのは、竹原慎二のみ。だが「広島の粗大ごみ」と呼ばれ、立身出世の物語も注目されたその先駆者は、96年6月のV1戦でウィリアム・ジョッピー(米国)にTKO負けを喫した。会場は縁の巡り合わせか、その時と同じ横浜アリーナ。1万1000人で埋まった会場の視線は、20年以上の年月を経た“リベンジ”にも注がれていた。

相手は27勝中5KOと、強打者ではないがゆえに、厄介な懸念もあった。勝率の高さは、ポイントを拾う術にたけているということも意味する。パンチがないからこそ、危険な打ち合いを避けながら、巧みに採点を稼ぐ。オーソドックススタイルながら、ワンツーが左から右ではなく、右から左につなげるタイプ。ジャブに合わせる右クロスは見栄えもいい。

村田の攻略法は、あえてジャブを多用することだった。右クロスを警戒して手数を減らすのではなく、むしろ増やした。フェイントを織り交ぜ、相手の逃げ先を狭めていくプレッシャーのかけ方は長所の1つ。イタリア人は、これまでの敵との格の違いを感じたが、ジャブに対して攻撃の起点にする余裕はなかった。「左ジャブが思った以上によく当たった」と振り返ったように、練習から繰り返したジャブで初回からペースを握った。

左から重い右ストレート、返しの左ボディーというシンプルながらも重厚なパターンで追い詰める。印象的だったのは2回からブランダムラの背中が赤く腫れていったこと。後退してロープにする擦過傷が増えていった。翻れば、その赤い線が村田のプレッシャーのすごみを印象づけていた。

「見ていて早う倒せよと思ったかもしれない。自分もそうでした」と仕留めきれずに、客席にもジレンマが満ち始めた8回。左ガードが甘くなったところに右ストレートを打ち込んでぐらつかせると、ロープ際に後退したところをさらに右。ストレートに備えて両グローブで顔の前面をカバーした挑戦者に、伸びる右フックがアゴに捉え、キャンパスにはわせた。レフェリーはすぐに試合を止めてのTKO勝ち。「最後の右は角度を変えてスッと打ち抜けた。たまたま入ったようでもそれが練習の成果なのでしょう」。完勝で日本人初の防衛を果たした。

それから2年。そのベルトを一度は手放したが、再びその手に取り返し、昨年末にはV1戦を5回TKOで飾った。新型コロナウイルスの影響でV2戦が決定するのは少し先になりそうで、その最中でのオンライン講義になる。日本人として五輪で金、プロでも世界王者という唯一無二の経験値は、これから偉業を目指そうとする後輩たちへの最高の後押しになるだろう。【阿部健吾】