たたき上げのプロキックボクサーの注目度が上がってきた。石月祐作(30=KAGAYAKIジム=燕市)。今年に入ってDBSスーパーフェザー級、KROSS×OVER同級の2冠を獲得した。地方ジムに所属しながら結果を残している王者には、首都圏の団体から対戦の打診が届くようになった。「一戦必勝」をモットーに確実に階段を上ってきた30歳のファイターは、周囲への感謝を胸に自然と高みを目指すようになった。

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ほんのひととき、安らぎの時間が訪れた。「少し休みました」と石月は笑う。10月25日、「KROSS×OVER」スーパーフェザー級王座決定戦で足利正和(27=TEAM Aimhigh)に判定勝ちし、2冠を獲得。その直後の1週間、キックボクシングから離れた。

8月、自身とジムにとって初のベルトになったDBS日本ムエタイスーパーフェザー級王座を奪取後、ペースを落とすことなくKROSS×OVER戦に向けた練習をしていた。ひとやま越えたことで、追い込んできた体と張り詰め続けていた気持ちを緩めた。「キックを楽しもうと思って過ごしました」。休暇の間、普段は会えない友人たちとも過ごした。ジムではアマチュア選手の指導などを行いリフレッシュをした。

養った英気は次戦への意欲になる。未定だが、すでに意識する。「声がかかればどの団体のリングにも上がる。強い相手と戦いたいです」。小さな団体が乱立するキックボクシング界。その中でも2つのベルト保持はインパクトがある。もともと那須川天心(22)も参戦する「RISE」で実績を積んできた。18年にはスーパーフェザー級で新人王を獲得し、現在は同級6位にランクされる。そこに箔(はく)がついた。「足利戦の前から首都圏から試合の打診が来るようになった。2つ取ってチャンスが広がると思う」。KAGAYAKIの伊達皇輝代表(45)も今後を重視する。

もともとタイトルには固執していなかった。「戦うことが好きだった。勝った時のうれしさがたまらなかった」。目の前の試合に全力を尽くし、終わったら次を目指す。その繰り返しだった。ベルトを奪った実績から少しずつ芽生えてきた感情があった。「応援してくれる人たちへの感謝ですね。この人たちにもっといい思いをさせたい、って」。

ジムには自分に憧れるアマ選手や、かける言葉1つに目を輝かせる子どもたちがいる。普段はプレス加工業の「ミノル」(燕市)で午前8時30分から勤務。試合のたびに激励し、理解を寄せてくれる同僚たち。「勝つと喜んでくれる。それが恩返し」。支えがあることの大切さを2本のベルトが改めて教えてくれた。

リングを離れれば読書に時間を割く。今の愛読書は吉川英治の「宮本武蔵」。小説、ノンフィクションとジャンルは問わない。「本を読んでいる時は場面を想像します。トレーナーに言われたことを具体的にイメージするのと同じなんです」。ソフトな一面も土台に組み込みながら、向き合うハードルを上げてきた。「勝ち続けて、世界を目指したい」。力強い言葉が自然と出るようになった。【斎藤慎一郎】

◆石月祐作(いしづき・ゆうさく)1990年(平2)10月9日生まれ、三条市出身。三条第一中から加茂農林へ進学。高校中退後、15年にスポーツ道場「KAGAYAKI」に入門。16年にアマチュアの全日本トーナメントで優勝。17年8月に「RISE」でプロデビュー。戦績12戦10勝(6KO)2敗。170センチ。血液型B。