プロボクシングWBC、WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトン(29=米国)が25日、東京・有明アリーナでWBC、WBO同級1位井上尚弥(30=大橋)の挑戦を受ける。

24日の前日計量では約5・5センチ上回る身長を生かし、フェースオフでは“上から目線”で井上とにらみ合い、統一王者の風格を漂わせた。それだけスーパーバンタム級で最強と言われる実績を残してきた自負もある。

デビューから21連勝、無敗の相手とも9戦全勝の統一王者だ。そのうちWBO王者アンジェロ・レオ、WBC王者ブランドン・フィゲロア(ともに米国)と無敗王者を下して2団体統一王者となった。昨年6月、元2団体統一王者ダニエル・ローマン(すべて米国)をも下して最強を証明。米国で同級トップと言われてきた新旧王者を次々と下したことが、現在の高い評価につながっている。

フルトンは「挑戦することや興奮できるような試合をするのが好き。井上尚弥と対戦できるのであれば断る理由はない。パウンド・フォー・パウンド(階級を超越した最強選手)トップの井上と統一王者の私との対戦。これは素晴らしい戦い。そして私が勝者としてリングを降りることになる」と統一王者の風格を漂わせる。

中、長距離では技術的なファイトをみせ、接近戦で打ち合いも可能。ロープを背負っても上体の動きでパンチを回避できる高い守備能力も兼ね備える。対戦相手のタイプに合わせて戦うことができるオールマイティーなボクサーだけに難攻不落と言える。

人気ボクシング映画「ロッキー」の舞台となった米フィラデルフィアの貧困層で生まれ、犯罪の多い危険地域のスラムで育った。生まれた時、父スティーブン・シニアさんが銀行強盗の罪で刑務所に。そして母コンマレーナさんは薬物(コカイン)依存症に苦しんでいた。姉イリアナさんら兄弟に支えられながら、麻薬と暴力の環境で成長していた。刑期を終えて出所した父に勧められ、12歳からボクシングを始めた。

イスラム教徒のため、ラマダン(断食月)でも練習は欠かさない。フルトンは「ラマダン中の戦いのトレーニングは、私が必要とするモチベーション、信念を私に与えてくれるように感じる。ラマダンは人生のオプションではない。試合はオプションです。宗教はオプションではない」と信仰心は強い。

ボクシングを開始してからマネジャー兼トレーナーのワヒード・ラヒム氏のサポートがあった。10代のアマ時代から指導者であり、練習パートナー以上の関係性だという。今回も一緒に来日し、間近で支えてくれている。フルトンは「(ラヒム氏と)素晴らしい関係を築いている。彼は私を経済的に、そしてボクシング界の内外で大いに助けてくれている」と感謝している。

逆境こそ、エネルギー。米国外でのプロ試合で井上の挑戦を受けることが決めたのも、それが理由だ。フルトンは「みんな、次のレベルに到達するために、何かを養う必要がある。克服すれば、次のレベルに引き上げる。私は世界王者になるために、精神的、肉体的、感情的に、私をよりタフにする何かを経験しなければならなかった。その瞬間に備えるために、今、私はいる」と言い切る。

2014年はスーパーバンタム級4団体統一を掲げている。井上に勝てば、次のターゲットは、WBAスーパー、IBF世界同級王者マーロン・タパレス(31=フィリピン)になる。フルトンは「私は欲しいものがあれば、それを選ぶ。14年は4団体王座統一と話してきたし、その元年だろう。私はすぐその近くにいるに」と燃えている。フルトン自らの大きな野望の「踏み台」が井上となる。

◆スティーブン・フルトン 1994年7月17日、米ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ。父スティーブン・シニアの勧めで12歳から競技を開始し、全米選手権2位などの成績を収める。米国代表にも選ばれて海外大会も経験し、アマチュア戦績は75勝15敗。20歳となった14年10月、2回TKO勝ちでプロデビュー。21年1月、無敗王者アンジェロ・レオ(米国)を下してWBO王座を獲得。同年11月、WBC王者ブランドン・フィゲロア(米国)との統一戦で判定勝ちし、2団体統一王者に。22年6月には元2団体統一王者ダニエル・ローマン(米国)にも勝利。愛称は「クールボーイ・ステフ」。身長169センチの右ボクサーファイター。