西前頭6枚目の阿武咲(21=阿武松)が、新入幕で10勝を挙げ敢闘賞を受賞した先場所に続く2ケタ勝利に王手をかける9勝目を挙げた。

 特別な思いを胸に臨んだ一番だった。相手の東前頭13枚目の宝富士(30=伊勢ケ浜)は、青森・中泊町の同郷の先輩。小1の時に、当時、五所川原商高の相撲部員だった宝富士に稽古をつけてもらい、以来、何かと気にかけてくれる恩人でもあった。「小さいときから見ている、あこがれの先輩。当時はめっちゃデカくて壁みたいなイメージしかなかったけど、ずっとかわいがってもらっている」と阿武咲。そんな先輩との一番を前に「俺も強くなったんだよ、というのを見せたかった」と臆することなく臨んだ一番は、立ち合いから一方的に押し込み「相手が崩れたのが見えた」(阿武咲)という勝機を見逃さず、グイと伸ばした左腕を、つっかえ棒を外すように引き落とした。

 都道府県別でNO・1となる、130年以上も幕内力士を輩出し続ける青森県で、宝富士を差し置いて部屋頭ならぬ「県頭」に就く阿武咲。初対戦で先輩に恩返しし「次に見据えるのは?」の問いかけ、間髪入れずに「横綱としたい。恩返ししたい」と答えた。6月に数日、出稽古に来て稽古をつけてもらった横綱稀勢の里(31=田子ノ浦)との対戦を夢見る。2桁勝利なら、来場所は横綱・大関陣総当たりの平幕上位に躍進する。優勝争いでもトップの白鵬に1差。場所前に21歳になった若武者が、世代交代をアピールする。