新入幕の東前頭16枚目朝乃山(23=高砂)が平幕の魁聖を寄り切り、デビューから10場所連続の勝ち越しを決めた。富山県出身力士の幕内勝ち越しは、94年夏場所の琴ケ梅以来。00年春場所の貴闘力以来となる幕尻優勝の可能性をわずかに残した。

 会心の相撲だった。朝乃山は魁聖と右の相四つでがっぷり胸を合わせた。「自分は下手だから」と小細工はせず、正面から頭でぶつかって、右を差して寄り切った。勝ち越しを報告したい人がいるかと問われ「やっぱり先生です。ずっと土俵の上で見守ってくれたと思う」としみじみ言った。

 頭に浮かんだのは、富山商高相撲部監督の浦山英樹さん。朝乃山が幕下優勝と関取の座を確定させた初場所13日目、恩師は40歳の若さで、がんのために死去した。その2日後の葬儀で遺族から「横綱になるのは大変だけど頑張れ」と書かれた遺言を渡されて涙を流した。あれから8カ月。この日は25人の報道陣に囲まれた。デビューから10場所連続で勝ち越して、注目度は横綱級だ。

 しこ名には、今の相撲の型を教えてくれた恩師に思いをはせて「英樹」をつけている。化粧まわしは、浦山さんの知人から贈られたものを着用。「闘虎」と書かれていて「先生と一緒に戦います。千秋楽まで着けます」と誓った。

 初日は両親が富山から応援に駆けつけ、千秋楽には地元からの応援ツアーが組まれているという。千秋楽パーティーにも参加予定で三賞や優勝の報告ができれば最高だが「(意識は)ないです」と冷静に言った。先を見ることなく「次は9番勝つこと。9、10ですね」と引き締めた。

 上位に休場者が相次いだ今場所。豪栄道との2差を残り4日間で詰めるのは容易ではないが、幕内で最も番付が低い幕尻の男が優勝争いに食らいついている。【佐々木隆史】

 ◆朝乃山優勝なら 平幕では12年夏場所の旭天鵬以来で、幕尻なら00年春場所の貴闘力以来2人目。新入幕なら1914年(大3)夏場所の両国以来103年ぶり。富山県出身では1916年(大5)夏場所の横綱太刀山以来101年ぶり。