西前頭3枚目栃ノ心(30=春日野)が念願の初優勝を飾った。勝てば優勝の一番で東前頭9枚目松鳳山を寄り切り、13勝1敗とした。13年名古屋場所の右膝前十字、内側側副靱帯(じんたい)断裂から4年半。東欧のジョージアからやって来て12年。12年夏場所の旭天鵬以来となる平幕優勝を果たした。

 鬼の目にも涙-。そんな言葉で形容されようとも、慶事だから大目に見てくれるだろう。栃ノ心の師匠、春日野親方(55=元関脇栃乃和歌)は“日本の父”として感慨にふけった。約46年ぶりに部屋から優勝力士を輩出した。「自分の時にこんなことができるなんて思わなかった。やんちゃ坊主だったのがね…。よくやってくれた」。愛弟子の快挙は協会事務所のテレビで見届けた。その瞬間、おえつを漏らし号泣した-。その姿を協会関係者は遠めで見守り、喜びを共有した。

 場所中に元弟子の暴行事件が発覚し、その対応に追われた。「(自分を)反面教師によく頑張った」と自虐の苦笑いもあったが、思い出すのは栃ノ心の苦労した姿。「ケガをして正直、ダメかなと。頑張れ、の言葉も度を越すと本人の苦痛になる。『もうやめる』と言ってくるかなと思った時もあったけど自分でも闘っていたろう」。

 ケガで幕下まで転落。悔しくて泣いていた栃ノ心の姿が思い浮かぶ。「三段目まで落ちたらモチベーションが…と思って出した」。復帰し幕下で2場所連続、関取に戻り2場所連続で十両優勝。42勝2敗で返り咲いた幕内復帰場所で敢闘賞を受賞した。取組で足の親指が外れ、花道で自らはめ直す栃ノ心の根性に「あのファイティングスピリットはすごい。うちの力士みんなが尊敬し慕っている」と褒めちぎった。

 望外の優勝を足がかりに今度は、部屋として栃光以来、約52年ぶりの大関誕生に期待したい。「自分の経験上、まだ力は出る。『お前はまだ、これからだぞ』と言い続けてきたからね」と師匠。さらなる夢の実現を、愛弟子に託す。【渡辺佳彦】

 ◆春日野部屋 名門出羽海部屋から独立。1925年に引退した横綱栃木山が部屋の礎をつくった。厳しい稽古で知られ栃錦、栃ノ海の両横綱、大関栃光らを輩出した。35年夏場所から関取が途絶えておらず、現在の全45部屋で最も長い。現在の師匠、元関脇栃乃和歌は2003年2月に部屋を継承した。初場所の番付では幕内栃ノ心、栃煌山、十両碧山、栃飛龍の4人の関取を含め、21人の力士が所属する。所在地は東京都墨田区両国。