無観客でも関係ない。大関とりの関脇朝乃山(26=高砂)が、平幕の徳勝龍を上手出し投げで下して2連勝した。

初場所で幕尻優勝した近大の先輩に完勝。“第2の故郷”同士の一番に、本来ならあるはずだった大歓声はなかったが、集中して取り切った。史上初の無観客開催となった春場所を期待の若手が引っ張る。

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2階観客席からの報道陣の乾いたカメラのシャッター音が鳴り響いた。大関昇進を目指す朝乃山と、先場所優勝の徳勝龍。注目の好取組にも、当然歓声はない。勝利を収めた朝乃山は「独特な雰囲気。でもその分、集中して相撲が取れている」と冷静だった。

立ち合いで差しにいった右腕を、抱えられて右に動かれた。体勢を崩したが何とか振り払って応戦。すぐにまわしを取りにはいかずにまずは突き押しで攻め、徳勝龍が前に出てきた瞬間に左上手を取って出し投げを決めた。「腕を抱えられるのは頭になかったけど体が動いてくれた。(出し投げは)とっさだった。胸を借りるつもりでいきました」と自然と体が動いた。

先場所優勝した近大の先輩相手に複雑な思いがあった。同場所中には同大相撲部監督の伊東勝人監督が急逝。徳勝龍の優勝は「いい恩返しになった」と、その瞬間は同じOB生として喜びがあったという。表彰式前には、花道で徳勝龍と握手をして祝福。しかし、それも今となれば「やっぱり悔しかったし、いい刺激になった。自分もまた上を目指していきたい」と気合が入っていた。

大関昇進の目安の「三役で3場所33勝」まで残り10勝。無観客でやりにくさを口にする関取衆も少なくないが「今日もしっかりと自分の相撲が取れました」と胸を張った。幸先のいいスタートを切ったが「ボチボチ。まだ2日ですから」と謙遜。会場を引き揚げる背中からは、どこか余裕さえあった。【佐々木隆史】