関脇正代(28=時津風)が「混沌(こんとん)の千秋楽」に持ち込んだ。単独トップだった元大関の照ノ富士を寄り切り、自身も初優勝の可能性をつないだ。同じ関脇の御嶽海も3敗を守り、結びで大関朝乃山が照強に敗れる波乱で4人が優勝争いに残った。正代か御嶽海が優勝すれば、13日目終了時点でトップとの2差を覆す史上初の大逆転劇となる。異例の場所で最後にドラマをもたらすか。

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興奮を抑えられない。照ノ富士を寄り切った正代はほえるように右の拳を振り上げた。「好調な相手だったんで、前の日の夜から気合が入っていた。そういうのが出てしまったと思います」。結果も内容も完璧な相撲に感情が爆発した。

「(対策は)いろいろ考えたけど、一番納得できる相撲は、自分は立ち合いなんで」。勝負をかけた立ち合いはもろ差し。左上手を許してもかまわず前に圧力をかけ、絶妙なタイミングの引き技でバランスを崩す。逃さず右を差し、最後は土俵下まで吹っ飛ばした。

もろ差しは照ノ富士に抱え込まれるリスクもあった。「きめられることも頭にあったが、中途半端に当たって持っていかれるなら、思い切って前に出ようと集中していた」。13勝を挙げた今年初場所、14日目に徳勝龍に土俵際で突き落とされ、星1つ差で賜杯を逃した。勝ちを意識して足が出ず、逆転された相撲を反省した。味わった悔しさがこの日の相撲につながった。

自ら可能性をつないだ。「(優勝は)意識しても硬くなる。頭の片隅に置いておくぐらいで」。可能性がある4人でただ1人、優勝の経験がない。追う立場でもあり、気持ちは楽に臨める。「千秋楽なんで、楽しめればいいかなと思います」。その千秋楽は結びで大関朝乃山に挑む。先に照ノ富士が敗れていれば、決定戦への生き残りをかけた一戦。そして賜杯が現実になれば、13日目終了時点で2差から初の逆転劇となる。

故郷の熊本・宇土市では毎場所、正代が勝つと3発の花火が打ち上がる。もちろんこの日も。豪雨被害に見舞われた熊本の人々は願っている。【実藤健一】

◆優勝争いの行方 千秋楽で照ノ富士が御嶽海に勝てば、その時点で照ノ富士の優勝が決まる。御嶽海が勝った場合は、照ノ富士、御嶽海、朝乃山-正代の勝者によるともえ戦(3人での優勝決定戦)となる。実現すれば幕内では94年春場所の曙、貴ノ浪、貴闘力以来7度目で、当時は曙が制した。

◆2差逆転優勝 1場所15日制が定着した49年夏場所以降、13日目終了時点で2差から逆転優勝した例はない。12日目終了時点からは4例、11日目終了時点からは8例、10日目終了時点からは5例ある。2差を追いつき優勝決定ともえ戦になったのは65年秋場所のみ。同場所は11日目終了時点で1敗の横綱大鵬を、2敗で平幕の明武谷、3敗の横綱柏戸らが追いかけ、千秋楽で横綱佐田の山、柏戸、明武谷が12勝3敗で並んだ。ともえ戦で連勝した柏戸が優勝した。