東前頭6枚目宝富士(33=伊勢ケ浜)が“家族愛”で優勝争いに食らいつく。西前頭3枚目隠岐の海を突き落として、13年初場所以来7年ぶりとなる9日目での勝ち越し。勝ちっ放しの大関貴景勝に土がつき、幕尻の志摩ノ海とともにトップに並んだ。10月で2歳になった長男慶丞(けいのすけ)ちゃんの存在が発奮材料。勝てばテレビの前で「やったー」と喜ぶ息子のために、実力者のベテランが旋風を巻き起こす。

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得意の左四つは十分なかたちではなかったが、宝富士は執念でカバーした。隠岐の海に寄り立てられた土俵際で、下手を切って右から突き落とし。まわしが奪えない中で「残すのに必死だった。褒められる相撲じゃないけど、最後まで諦めなかった」。中日以降でトップに立つのは16年名古屋場所10日目以来4年ぶり。9日目での勝ち越しは自己最速タイという33歳の関脇経験者は「だいぶ早い。自分でもびっくり」と笑みをこぼした。

大関経験者との場所前の稽古が充実していた。部屋頭の照ノ富士に指名され、秋場所が終わって約1カ月、毎日のように三番稽古を重ねたという。「だめな相撲を取ると1発で持っていかれる」と圧倒される場面もあるが「稽古内容はすごく濃い」。両者の好成績が何よりの証拠だ。

家族の存在が大きい。結婚4年目の英莉乃夫人は肉や魚、十六穀米などバランスのいい食事を用意してくれる。「愛情を感じる。それが一番大きい」とのろけも全開。長男の慶丞ちゃんも毎日テレビ観戦を欠かさず、勝てば「やったー」と喜んでくれる。残り6番全て勝って計“14ヤッター”を出すことが究極の目標だ。家に帰ると、笑顔で抱っこを求めてくる姿が「癒やしです」。抱きかかえ方を問われると「左でこうすることが多い」と、右脇に左を差し込む動きを見せた。家庭では安心感を与える左四つで、混戦場所の主役に名乗りを上げる。【佐藤礼征】

▽八角理事長(元横綱北勝海) 宝富士は勝負を最後まであきらめなくなったことが、いい方に向かっている。稽古はウソをつかないということを証明してほしい。翔猿は押そうという気持ちが良かった。前に出ようとしたから、いなしが効く。貴景勝は翔猿を警戒して難しい相撲だった。