角界屈指のサラブレッドに、賜杯のチャンスが訪れつつある。西前頭6枚目の琴ノ若(24=佐渡ケ嶽)が、東前頭筆頭の大栄翔を破って1敗を守った。元横綱琴桜は母方の祖父で、師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)は父親。一家としては、祖父が5度目の優勝を果たした73年名古屋場所以来、49年ぶりの賜杯が懸かる。平幕の高安が全勝で首位を堅持。新関脇の若隆景と琴ノ若が1差で追う。

【取組速報】春場所10日目全取組結果

突きの威力を逃がし、吸収するように、攻めをしのいだ。琴ノ若は胸を張った。「慌てず(下から)あてがいながら、自分の空間で勝負ができた」。狙いは密着する展開。右を差すことはできなかった。それでも、祖父と父から受け継いだ188センチ、165キロの体は、大栄翔の突き押しにも下がらない。終始圧力をかけ、最後は懐の深さを生かしてはたき込み。埼玉栄高の4学年上の先輩を相手に、どっしり構えた。

前に圧力をかける-。オンライン取材で繰り返す言葉は、ケガの教訓がつながっている。入幕2場所目の20年7月場所と、昨年秋場所に途中休場。いずれも左膝のケガだった。「危ない相撲を取って、自分の体を傷つけたくない。しっかり圧力をかける、前に出る相撲を取れと師匠(佐渡ケ嶽親方)に言われてきたので」。安易に引くと膝に負担がかかる。父でもある師匠の言葉を胸に刻んでいる。

“鎌谷家”としては49年ぶりの優勝が懸かる。父は幕内優勝の経験がない。祖父の最後の優勝は、73年名古屋場所までさかのぼる。自身は11勝を挙げた先場所で、初めて千秋楽まで優勝争いに絡んだ。「それは終わってみてからの結果になる。いい相撲で勝って、結果につながればいい」と琴ノ若。先を見据えず、目の前の一番に集中する。

高安を含めた平幕の快進撃により“割崩し”も起きた。通常は上位陣と当たらない番付だが、11日目は大関貴景勝戦が組まれた。取組編成を担う審判部から期待を込められた格好。結びの一番に登場する。

会場を引き揚げる前に、琴ノ若も翌日の割を確認していた。口調は落ち着いている。「気持ちは変わらず、自分の相撲を取りきるだけ。思い切り、自分の力を出し切れるようにしたい」。三役経験のない24歳が、台風の目になる。【佐藤礼征】

▽幕内後半戦の藤島審判長(元大関武双山) (琴ノ若は)柔軟性があって腰も重い。今場所は四つにこだわらず、攻めている相撲が多い。先場所も優勝争い(11勝)しているし、いい経験を積んでいる。上位陣にしたら(対戦は)イヤなんじゃないか。どんな取り口か経験ないだろうから。