大相撲の19年名古屋場所で現役引退した元関脇安美錦の安治川親方(43)の引退相撲が29日、東京・両国国技館で行われた。新型コロナウイルスの影響で2度延期、現役引退から約3年が経過しての開催。この日を待ち焦がれたファン、関係者から万雷の拍手を受けた。安治川親方は「2度の延期がありましたが、みなさんのおかげで無事開催できた」と土俵上で感謝の言葉を口にし、一緒に土俵に上がった長男の丈太郎君(4)とともに深々と頭を下げた。

断髪式には落語家の笑福亭鶴瓶、ロックバンド「ザ・クロマニヨンズ」のボーカル甲本ヒロト、柔道男子60キロ級で五輪3連覇の野村忠宏氏ら約350人が参加。弟弟子の横綱照ノ富士、現役時代にしのぎを削った九重親方(元大関千代大海)や浅香山親方(元大関魁皇)がはさみを入れた後、師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)が止めばさみを入れた。

整髪後に真新しい黒のスーツで再度土俵に上がった安治川親方は「私の相撲人生は、好きになった相撲を好きなだけやった人生でした。本当に幸せでした」と声を震わせながら語り、「今日は親方としての新たな1歩だと思います。これから相撲協会のために一生懸命頑張ります」と決意を述べた。

青森・深浦町出身。祖父も兄も元力士で、師匠の伊勢ケ浜親方は父のいとこに当たるという相撲一家。小1から相撲を始め、鰺ケ沢高から安治川部屋(現在の伊勢ケ浜部屋)に入門。97年1月に初土俵を踏み、00年1月新十両、同年7月に新入幕と順調に番付を上げた。元大関魁皇と並ぶ歴代1位の関取在位117場所目となる19年名古屋場所10日目に引退を表明した。当初は20年10月4日に引退相撲を実施する予定だったが、新型コロナウイルスが発生して21年5月30日に延期。先行きを見通せないコロナ禍は続き、今年5月29日に再延期した。

この間に伊勢ケ浜部屋の部屋付き親方として後進の指導に当たりながら、21年4月より早大の大学院スポーツ科学研究科に通った。安治川親方は「2年の延期、辞めてから約3年にわたり断髪式をできなかったことは正直疲れましたけど、この3年間延びたことでいろんな出合い、学びがありました」と振り返る。

逆境をプラスにはねかえし、ようやく訪れた引退相撲。往年のライバルたちからはさみを入れられた時には涙をぬぐう光景もみられ「はじめは粛々と進んでいたけど、いろんな人との出会いを思い出して気持ちが高ぶった」。今後について「こうありたいという理想ではなく、力士たちと一緒に成長したい」と気持ちを新たに親方としての第二の相撲人生を歩む。