大相撲名古屋場所8日目に起きた「まわし待った」騒動について、立行司・木村庄之助を務めた2人に見解を聞いた。

問題が起きたのは、8日目の結びの一番、照ノ富士-若元春戦でのこと。取組中、若元春のまわしが緩んだため、立行司の41代式守伊之助が両者に「まわし待った」を指示。照ノ富士は力を抜いて動きを止めたが、若元春は気付かないまま寄り切った。物言いがつき、審判団が協議の末、「まわし待った」の場面から体勢を作り直し、取組を再開。照ノ富士が下手投げで勝った。

35代木村庄之助の内田順一さん(75)は「まわし待ったをかける判断は間違っていない。ただ、タイミングがちょっと遅かった。これは難しい。今回は行司がまわし待ったをかけても、止まらなかった。あの場合、言っても動いていたら止めなきゃだめ。昔から行司は『まわしだ!』と大きな声で言えと言われてきた。大きい声を出さないと分からないこともあるから」と指摘。行司の先輩として、伊之助の気持ちをおもんぱかった。

同時に内田さんは、その後の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)の振る舞いに好感を持ったという。取組を再開するため両者の体勢を再現する際、審判長の佐渡ケ嶽親方は土俵に上がって丁寧に指示していた。内田さんは「佐渡ケ嶽親方が良かった。水入りで同じようなことがあった場合、昔の親方は土俵の下で座ったまま、行司を怒鳴りっぱなしだった。佐渡ケ嶽さんは立派。あっぱれだよ」と、適切な対処を称賛した。

36代木村庄之助の山崎敏廣さん(74)は「その時の判断だから何とも言えません。止めるタイミングがちょっとずれたかな。自分がその場にいたとしたら、どうしていたか分かりません」とやんわり指摘した。

大相撲の行司は基本的に年功序列で、定年は65歳。加齢とともに体力が落ちていく年齢になるほど、技術レベルが高く、スピードが速い番付最上位の取組を裁かなければいけない矛盾に直面する。

内田さんは立行司として4年以上、1度も差し違えなし。山崎さんは5年間で1度だけ。両者とも極めて安定した立行司だった。

41代伊之助は差し違えが目立ち、苦悩の土俵が続いている。昇進が認められず、7年以上も木村庄之助は空位のままだ。山崎さんは「私の場合は日ごろから歩きました。暇があれば、腹筋やスクワットもしました。深酒もせず、食生活も気をつける。自分との闘いですね」と、立行司としての気構えを説いた。【佐々木一郎】