十両の取組で24年ぶりの水入りがあり、行司が的確な進行を促した。志摩ノ海-水戸龍戦は、立ち合いから約4分38秒後に水入り。再開後を含めて約6分に及ぶ熱戦だった。十両格行司の木村隆男(47=田子ノ浦)は、両力士を止めた後、足の確認し、塩でつま先の位置を記録。7日目の幕内取組で水入りがあった際、幕内格行司の木村寿之介(56=大島)が実践した塩によるマーキングを取り入れ、混乱なく取組を再開した。隆男に事情を聴いた。【取材・構成=佐々木一郎】
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-合わせた取組が水入りになったのは初めてですか
隆男「初めてです。32年やっていますが、初めてでした」
-取組中、水入りになりそうだと思っていましたか
隆男「思っていました。2人が止まって、1、2分はずっと『ヨイ、ハッキヨイ』と言っていましたから」
-7日目の水入りで寿之介さんが塩を用いた場面は見ていましたか
隆男「見てたんですよ。指で(土俵に)印をつけるやり方もありますが、塩の方が見やすい。先輩の寿之介さんがやっていらしたので、まねさせてもらいました。2人が離れてもしっかり(塩の記録が)残っていました。もちろん、マークするだけでなく、足の位置を凝視して目に焼き付けることもしました」
-組み手はどう確認しましたか
隆男「水戸龍が右を差していて、それほど難しい体制ではありませんでした。あとは、審判長の佐渡ケ嶽親方にも確認していただきました」
-もし、寿之介さんの動きを見ていなかったらどうしていたと思いますか
隆男「指で印を付けていたかもしれません」
-2場所で2度の水入りは珍しいですね
隆男「まさか自分が今日、こうなるとは思っていませんでした。いい経験をさせていただき、勉強になりました。まだまだ精進していきたいと思っています。いつもより汗をかき、手汗でびっしょりでした」
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この一番を、寿之介は放送担当として場内で見ていた。寿之介は「4分が経過し、そろそろ水入りかと思っていました。(隆男が)『塩』って言った瞬間に『おっ』て思いました。(後輩が模倣し)うれしかったですね。あれから隆男にまだ会ってないんです。会ったらこの話になるでしょうね」と話した。
十両での水入りは1999年九州場所の琴光喜-北桜以来24年ぶり。今場所は7日目に幕内で北青鵬-翠富士が水入りとなっており、日本相撲協会広報部によると、十両以上で1場所2度は平成以降初。
行司が塩を使って力士の足の位置を記録したのは、寿之介が初めてとみられる。合理的なマーキングは、すぐに後輩に受け継がれた。