かなり無理のある設定でも、スタッフ-キャストの思いがしっくりと重なると自然に見えてくるものだ。23日公開の「ハード・コア」にそんな思いを新たにさせられた。

90年代にコミック誌「グランドチャンピオン」に連載された「ハード・コア 平成地獄ブラザース」(作・狩撫麻礼、画・いましろたかし)は、どう考えても実写化の難しい作品だ。

正義感が強く、純粋すぎる主人公の右近は世間に居場所を無くし、怪しい結社の埋蔵金探しの日当で食いつないでいる。心を許すのは、お人よしで頭の回転が鈍い同僚の牛山だけだ。弟の左近は対照的にエリート商社マンだが、こちらも日常に退屈を覚えている。

随所に痛いほどのエッジを立てながら、ここまでは濃いめの人間ドラマとして見ることが出来る。が、牛山が住処にしている廃工場で謎のロボットを発見したところから物語は急転する。まるで人格があるかのように動くこのロボットに、右近と牛山はロボオと名付ける。

廃工場を訪れた左近はロボオのハイテクに驚き、そのAIを活用すれば簡単に埋蔵金を探すことができると言い出す。ロボオの能力がしだいに明らかになる中で、事態は予想外の方向に…。

人間くさいドラマにいきなり登場するロボットには違和感がありそうなものだが、これが不思議なほどしっくりと溶け込んでいる。なぜそこにあったのか、突然起動した理由は? 説明はまったくないのだが、「オズの魔法使い」のブリキ男のような外見を彼らはいつの間にか受け入れる。そして、見ているこちらも彼らの気持ちをいつの間にか分かった気持ちになる。

山下敦弘監督と主演の山田孝之がともに原作のファンであったこと、曲折の末に運命的に映画化に至った背景があるからなのだろうか。

ロボオの中に入っているのはロック・バンド、オシリペンペンズのボーカル、石井モタコで、実は適役中の適役なのだ。山下監督は「ロボオにも人格のようなものが欲しかった。モタコはジャッキー・チェンの『少林寺木人拳』が大好きで、あの映画に出てくる木製のからくり人形を段ボールで再現してジョン・ウー監督に会いに行った人だから」と明かしている。原作への思いは、こんな形でも詰まっている。

山田孝之には濃いめのキャラクターが似合うが、数日分の無精ひげと脂っこさを全開にして、かたくなな右近の生き方に説得力を生んでいる。弟・左近役の佐藤健のすっきり感は文字どおりのコントラストだ。反目し合おうが、ののしり合おうが、絶対に切れない兄弟の信頼関係が2人のアイコンタクトに現れる。この絆が心地よい。

そして、ちょっと足りない牛山役の荒川良々のはまりぶりもハンパ無い。

どこにでもありそうな背景の中で繰り広げられる不思議世界。原作と違うラストまで、しっかりと楽しめた。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「ハード・コア」の1場面 (C)2018「ハード・コア」製作委員会
「ハード・コア」の1場面 (C)2018「ハード・コア」製作委員会