7世紀に「0」の概念を生み出した国、インドは今やグーグルを始め、世界的なIT企業のトップに人材を輩出している。

その「理数系大国」の最難関といわれるインド工科大学(IIT)に、自身が主宰する教育プログラムから多数の生徒を送り出し、特に08、09、10、17年には塾生30人の全員合格を果たしているのが数学者アーナンド・クマール氏だ。

前置きが長くなったが、米国のバラク・オバマ氏も大統領在任中に称賛したその私塾「SUPER30」をタイトルに、クマール氏の奇跡のような実話を描く作品が23日に公開される。

生まれながらにして数学の才能に恵まれたアーナンド(リティク・ローシャン)は、ふと目にした学術誌に難問の回答を送ったことをきっかけに、ケンブリッジ大学の入学許可証を得る。が、貧しさゆえに留学資金の調達はままならない。

理解者だった父親の死で、途方に暮れる彼を拾ったのが予備校経営者のラッランで、教育者としての才能に目覚めたアーナンドは一躍人気講師として豊かな生活を手に入れる。

が、予備校の高額な学費を払えず、かつての自分同様に才能がありながら将来を閉ざされた子どもたちを目にするうちに、無償で学べる私塾の設立を思い立つ。

人気講師の独立に危機感を覚えたラッランの妨害工作はエスカレート、癒着関係にある行政の長や彼らに雇われた裏社会の人間による破壊工作も始まって…。

「日常のすべてに疑問を持て」「金がないなら工夫しろ」「英語コンプレックスを克服せよ」-理にかなったアーナンド先生の言動で、コンプレックスの塊のような生徒たちの目がしだいに生き生きしていく様子をヴィカース・バハル監督は、心地よく、手に取るように伝えてくれる。

インド映画ならではのミュージカル的演出もテンポ良く挿入され、アクションシーンでは、エンタメ度が一段とアップする。「破壊工作」を生徒たちが知恵と勇気で乗り越えるところには留飲が下がる。

1万5000人のオーディションから選ばれた30人の生徒たちの個性が生かされ、白い歯の笑顔が心に残る。先生の恋人役ムルナール・タークルも美しい。

一方で、平然と違法行為を行うラーランや行政の長が罰せられないインドの現実も浮き彫りになる。

日本よりかなり振幅の大きなインドの「親ガチャ」にはいかんともしがたいものがあり、この映画はその格差社会の根深さも改めて印象づける。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)