ロサンゼルス在住のマイ・ホン監督は、数年前に引き取ったネコと暮らすうちに夫が変わって行く様子を目の当たりにしたという。

「決してネコ好きではなかった彼が絆を深め、以前よりも思いやりや繊細さを増していったんです」

「猫と、とうさん CAT DADDIES」(7月28日公開)は、そんなホン監督が米国各地でネコと暮らす9人の男性にスポットを当てたドキュメンタリーだ。

当初はネコへの愛を通して、トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)と対極にある現代風の優しさを映す軽めの楽しい作品を想定していたという。が、撮影中にはコロナ禍があり、ネコへの愛だけが支えのホームレス男性との出会いがあった。

どっしりと構えたアングルが多く、ネコを見つめる男性たちの表情から人間本来の優しさがにじみ出る。タイトルからは想像しにくいが、命の重さがジワッと伝わり、愛犬と暮らし、ネコとの縁の薄い私も何度かウルッとさせられた。

オーティションに落ち続けた俳優のネイサンは、飼い猫との日常を撮った写真がインスタグラムでバズり、それをきっかけに仕事が舞い込むようになる。

命懸けが日常の消防隊員ジョーダンは、署に住み着いたネコにつかの間の癒やしを得ている。

教員のマレスが飼っているキーズはゴールキーパーのような「バンザイポーズ」でSNS上の大スターとなり、「ゴールキティ」グッズがバカ売れしている。

どのエピソードも随所にホロッとさせる要素が織り込まれ、味わい深いが、作品の軸となっているのは、やはりニューヨークの路上生活者のパートだ。心優しいジョバンニは路上で瀕死(ひんし)のネコを救う。すっかり彼になついたその「ラッキー」は彼の生きがいとなる。そして、ラッキーを通じて知り合った人々の援助で彼自身の再起の道も見え始める。が、健診のつもりで訪れた病院でガンが見つかり…。

ホン監督は彼の周囲の関係者も丁寧に追い、まるで一編の劇映画のように彼の半生を描き出す。友人のように接する警察官や、近くのオフィスで働くおせっかいな女性秘書…ネコ愛がつなぐ人々優しさが心に染みる。

パンデミックはもちろん、日本のニュース番組でも取り上げられた大規模な山火事、野良猫を救うNPO活動ー9つのエピソードに絡むさまざまな事柄がつかず離れず不思議とひとつのうねりのように感じられ、エンディングに着地する。編集にも技ありの一編だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)