先日行われた、野田秀樹(62)が作・演出・出演するNODA・MAP公演「贋作 桜の森の満開の下」(9月1~12日、11月3~25日=東京・池袋の東京芸術劇場)の会見で、17年前の「すっぽかし」事件の真相が明らかになった。

 同作は坂口安吾の小説をもとにした舞台で、劇団夢の遊眠社時代の89年に初演後、92年、01年、17年の歌舞伎版と上演された。「すっぽかし」事件は01年の新国立劇場公演の会見で起こった。約70人の取材陣が集まったが、スタッフが「車で移動中の野田が渋滞に巻き込まれたため、15分遅れで始めます」と告げた。しかし、野田は現れず、今度は「連絡が取れない状態になった。とりあえず出演者だけで始める」と15分遅れで会見が始まった。

野田秀樹不在のまま進行する会見に戸惑いの表情を見せる堤真一(右)と深津絵里(2001年4月撮影)
野田秀樹不在のまま進行する会見に戸惑いの表情を見せる堤真一(右)と深津絵里(2001年4月撮影)

 肝心の野田がいないため、演出プランを聞こうにも答える人がおらず、夜長姫役で出演の深津絵里も「こんなに大切な会見に遅れてしまうような人なんです」とあきれる場面もあった。会見は35分で終わったが、野田の欠席に、取材陣の間で「寝坊説」「交通事故説」が飛び交った。会見終了から30分後に野田は稽古場に駆けつけ、会見に訪れたマスコミ各社にファクスで「すみません。忘れちゃいました。今日は天気もよかったので、外へ出て喫茶店で今回の台本を読み込んでいました。没頭してしまい会見をすっかり忘れてしまった」と釈明した。

 しかし、事実は違っていた。先日の会見で、01年公演と同じくマナコ役で出演する古田新太(52)が「当時、野田さんが会見をすっぽかして大事件になりました」とコメントすると、野田がすかさず訂正した。「会見の前日、古田と飲んでいた時、『あまり(会見に)乗り気じゃない』という話をしたんですね。そうしたら、古田が『じゃあ行かなきゃいいじゃないですか、僕がなんとかしておきますよ』と言って、僕はそれを真に受けてすっぽかした。そしたら大騒ぎになって。古田は(現場で)何のフォローもしてくれなかった」と真相を暴露した。

 今回は耳男に妻夫木聡(37)、夜長姫に連続出演となる深津、オオアマに天海祐希(50)、そして古田という豪華な顔触れが出演。野田もヒダの王を演じるほか、秋山菜津子、大倉孝二、藤井隆、門脇麦、村岡希美、池田成志、銀粉蝶と演技派がそろった。そのキャスティングにも野田らしさが見られた。

「贋作 桜の森の満開の下」会見で。前列左から野田秀樹、妻夫木聡、深津絵里、天海祐希、古田新太、後列左から秋山菜津子、大蔵孝二、藤井隆、村岡希美、門脇麦、池田成志、銀粉蝶(2018年4月5日撮影)
「贋作 桜の森の満開の下」会見で。前列左から野田秀樹、妻夫木聡、深津絵里、天海祐希、古田新太、後列左から秋山菜津子、大蔵孝二、藤井隆、村岡希美、門脇麦、池田成志、銀粉蝶(2018年4月5日撮影)

 オオアマは夜長姫らに愛される皇子の役で、歌舞伎版では松本幸四郎(当時は市川染五郎)が演じた。野田は「皇子役なので、どういう人だったらピタッとくるかと考えていたら、天海祐希という名前が思いついた。半分ダメかなと思っていたんですけど、即答してくれた。気持ちのギアが上がった」。95年の宝塚退団以来、23年ぶりの男役となる天海は「この舞台に出たいと思っていたので、『絶対やりたい』とお返事した後で、あれっ、男の人の役だと気づきました。(男役として)鈍っているかもしれないけれど、愛されるように頑張ります」。

 さらに初演で自ら演じた耳男役に指名した妻夫木について聞かれた野田は「舞台袖から見ていて、彼が耳男をやるときっと良いだろうと思った。妻夫木君って、僕の印象では、弱っちい人の役が似合うんです。いじめられる対象になりやすく、真面目に生きようとすればするほど抑圧されていくようなところがいいな」。これには妻夫木も「光栄です」と苦笑いで応じた。

 野田は作・演出・出演する「表に出ろいっ!」の英語版舞台「One Green Bottle」を4月にロンドン、6月にルーマニア・シビウで上演する。「贋作 桜の森」も9月28日から10月3日までパリの国立シャイヨー劇場で上演される。野田は「日本を代表して行くなら、考え得る最高のキャストをと思った。当たって砕けろのつもりでオファーしたら、最高のカンパニーになった」。フランスの観客は舞台がつまらないと、途中でも平気で帰ったりする。自信のコメントの裏に、野田も好きなサッカーのW杯代表監督のように、演劇界の日本代表キャストを率いてフランスの観客に立ち向かう演出家のプライドを感じた。【林尚之】