歌舞伎界を舞台にした映画「国宝」の大ヒットの影響もあって、歌舞伎に関心が集まっています。12月の歌舞伎座公演にも大勢の観客が詰めかけています。「国宝」では歌舞伎とは縁のない任侠の家に生まれた青年が人間国宝になるまでが描かれていますが、今月の歌舞伎座でも「御曹司」ではない歌舞伎俳優の姿に注目しました。

第二部で中村獅童が主演する「芝浜革財布」にうなぎ屋の若い者助八役で出演する中村獅三郎です。国立劇場の歌舞伎俳優養成所出身で、今年4月に獅童のもとに弟子入りしたばかりの若手です。第一部の獅童主演「世界花結詞」や第二部の「丸橋忠弥」では蜘蛛四天や捕手の一人として立ち回りで活躍しますが、台詞はありません。しかし、「芝浜」ではしっかりと台詞がある役でした、獅童演じる政五郎が、長屋仲間と宴会をして酒に酔って寝込み、みんなが帰った後に起きると、そこいたのは助八だけ。うなぎを届けに来た助八を宴会に呼び込んだことも忘れた政五郎が「おめえは誰だ」と言い、助八とのやりとりがある、おいしい役です。父が早くに歌舞伎俳優を廃業したため、若いころは苦労した獅童ならではの温情ある配役といっていいでしょう。

そして、第三部の坂東玉三郎のお富、市川染五郎の与三郎の「与話情浮名横櫛 源氏店」では、与三郎の相棒の蝙蝠安に松本幸蔵が抜てきされました。幸蔵も国立劇場の養成所出身で、松本白鸚に入門して30年を超える中堅です。蝙蝠安は最近では尾上松也、坂東弥十郎らが演じている重要な役ですが、幸蔵は臆することなく、お富に金をせびる小悪党をしっかりと演じていました。頑張っている役者がいい役につけるのも、ある意味で「国宝」効果なのかもしれません。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)