人前で話すのが苦手な男子高校生・チェリー(市川染五郎)と、見た目にコンプレックスを感じてマスクを手放せない女子高生・スマイル(杉咲花)の、ぎこちないながらもまっすぐな交流を描いた。

誰しもがコンプレックスを持っていると思う。チェリーが俳句でしか気持ちを表せないのも、スマイルがかわいいと言われようが口元を見せたくないと思うのも、よく分かる。高校生の青春の中に、とても普遍的な物語を見ることができる。

染五郎と杉咲の演技が作品の魅力を増しているが、2人とも演じたキャラクターにどこか共感できるところがあったからなのだと思う。染五郎は、人見知りで俳句に情熱を注ぐチェリーに、歌舞伎に懸命になる自分を見たという。杉咲も、前歯がちょっと出ているスマイルに共感を覚えたそうだ。

アフレコが行われたのは1年半以上も前。歌舞伎以外の仕事に初挑戦した染五郎のうまさにも驚いた。声の強弱、息づかいなどは初めてとは思えない。本来なら昨年5月公開だったが、公開延期になった作品。今とは違う1年半前の2人もたっぷり詰まっている。【小林千穂】

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